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時流

認知症の人を「人」として理解するには

   北星学園大学文学部 心理・応用コミュニケーション学科教授 大島寿美子  

 
 認知症対策が新たな転換点を迎える中、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行され、認知症施策推進基本計画の策定に向けた議論が進む。法律や基本計画の素案から読み取れるのは、認知症の人を「患者」ではなく、1人の「人」として捉える視点である。
 
 基本法は「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができる」ことを目指す。そのために「認知症の人の意向を尊重した良質で適切な保健医療及び福祉サービスの提供」がうたわれる。意思の尊重は基本計画の素案でも重点目標になっている。尊厳の保持や意思の尊重が強調されるのは、それらが実現されてこなかった苦い歴史があるからだ。

 認知症の人は、認知症という状態とともに社会で生活を営む。支援者は単なる症状や状態ではなく、生活の中の困りごとや望みに目を向けることが必要となる。認知症の人の意向や意思を尊重するには、保健医療や福祉関係者がそのような視点を持てるかどうかが鍵となる。

 その視点を養う一つの方法として提案したいのが認知症の人の「語り」を聞くことである。これまでどのような人生を歩んできたのか、認知症とどのように向き合ってきたのか、その中でどんな気持ちになったのか、現在何に困難を感じ、何をしたいと思っているのかに関心を向け、耳を傾ける。過去から現在までの時間の流れに沿った人生の語りを通して、聞き手は認知症の人を1人の人として理解していく。本人の意向や意思は、そのような文脈の中で初めて理解可能となる。

 認知症の体験の語りと出会うのはそれほど難しいことではない。メディアやウェブサイトを通じて、認知症の人が自らの体験を語った文章や映像が紹介され、本人が登壇して体験を語る講演会も各地で開かれている。認知症の語りを集めた書籍や啓発冊子も見つけることができる。

 なにより身近に認知症の人がいるなら、彼らの語りに耳を傾けてみてほしい。問題を解決するのではなく、その人を理解しようとする姿勢で。それこそが基本法の理念を実現する第一歩となるだろう。

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