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時流

職住近接=ワークライフの良好バランス

   小樽商科大学 商学部企業法学科教授 片桐由喜  

 
 先日、新聞記事で首都圏の地価高騰、不動産価格の上昇により、職場と自宅の距離がどんどん離れている、そのせいで通勤時間が伸びて、仕事と家庭生活の両立が困難となり、職業生活を続けることを、とりわけ女性が仕事を断念する例が表れていると報じられていた。あるいは、家賃の高い首都圏に住むことを選択すれば、おのずと居住面積が減り、子どもを1人、あるいは、あえて持たない選択をする世帯があるとも指摘している。だから、女性のキャリア保障と少子化の解消には不動産価格のコントロールが必要であると締めくくられている。

 片道1時間、2時間かけて満員電車での通勤を続けることは単身者でも楽ではない。ましてや乳幼児を育てながら、この通勤を続けるのが無理なのは自明である。このような場合、上述のとおり、女性が退職し家庭に入ることが圧倒的に多い。もっとも、北海道のいわゆる郡部地域はたいていの場合、職住近接がおのずと実現していて、仕事と家庭生活の両立が首都圏と比べて容易であるといってよいだろう。そもそも、満員電車なるものが存在しない。

 しかし、その例外が札幌近郊の小都市である。筆者の住む小樽をはじめとして、江別、北広島、等々である。小都市に職場を得ても、都会の機能を備えた札幌に住みたいと思う者は多く、そして、電車や高速道路の存在がそれを可能にする。しかし、この場合、通勤時間は決して短くはなく、仕事と家庭生活の両立は厳しいものになる。

 本学は一昨年、帯広畜産大学、北見工業大学と経営統合し、2大学の教職員と話す機会が増えた。そこで知ったことは本学の子育て中の職員は育児時短勤務形態を活用し、フルタイム勤務をしばし離れているが、ほかの2大学ではこの勤務形態をさほど使っていないということである。なぜなら、「大学から家まで車で10分」という職員が少なくないからである。つまり、職住近接が育児中であっても、希望する場合には職員がフルタイムで働くことを可能にし、ワークライフバランスを良好に保つことに貢献している。

 札幌近郊の小都市は「なまじ札幌が近い」がために、そこで働く者は職場の近くに住まず、札幌に住むことを選ぶ。どこに住むかは憲法で保障された権利であり、国家はもちろん、職場の干渉も原則、許さない。また、配偶者、親、あるいは子どもの事情など札幌に住む理由はもちろんあるだろう。しかし、育児や介護で今なお、多くの時間と労力を費やすのが女性であることを思う時、彼女たちのキャリアを中断させず、職業人としての能力を発揮してもらうには職住近接が最も有効であると主張したい。

 そのためには職場のある小都市が魅力ある街でならなければならないし、夫婦(あるいはパートナー同士)双方の職場が近接しているのが望ましいが、これが一番の難問である。いっそ、新幹線ではなく、札幌から小樽などの近郊都市に地下鉄が通っていたらよいのにと、夢を語ってペンを置く。

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