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時流

ケア従事者の職業倫理をめぐって

   北海道大学名誉教授 前沢政次  

 
 ケアを必要とする人が増え、しかも求められるケアは多様で、その対応の仕方は混迷の中にある。
 
 最近介護支援専門員の研修カリキュラムの改訂があり、それにともなってテキストの改訂がなされた。筆者自身もあるテキストの中で、介護支援専門員の倫理部分を執筆するように依頼され、原点に立ち返って、さまざまな参考図書を読み直した。
 
 介護支援専門員が有すべき倫理について検討した際に、直面したのはまず「倫理と道徳、法令遵守の違いやそれらの関係性」である。多くの文献を調べたが、法令遵守と道徳・倫理の区別はつきやすいが、道徳と倫理はほぼ同じ意味であるという文献が多かった。執筆が終わってから手にした近内悠太著『利他・ケア・傷の倫理学』(晶文社 2024年)の中で、ようやく道徳と倫理を区別している文章に出会った。
 道徳と倫理との違いとは、単純明快、強制と自由との違いである。「してはいけないからしない」これは道徳であり、「したくないからしない」これが倫理である。(近内、同書)

「罰せられるからしない」これは道徳であり、「いやだからしない」これが倫理である。
(池田晶子『言葉を生きる』筑摩書房 2022年)
 
 介護支援専門員に倫理が問われるのは、認知症をはじめとする人とのコミュニケーションにおいてであろう。認知症の人に対して人としての価値を貶める行為としてはトム・キットウッド(イギリスの社会心理学者)が次の17点を挙げている。①ごまかす②権限を与えない③子ども扱いする④脅かす⑤レッテルを貼る⑥偏見を持つ⑦急がせる⑧訴えを退ける⑨のけ者にする⑩もの扱いする⑪無視する⑫無理強いする⑬ほっておく⑭非難する⑮妨害する⑯あざける⑰誹謗する、である。これの問題に気づかずに、ケアに従事している人のなんと多いことであろう。それもほとんどが無意識のうちに行われている。

 介護支援専門員にとっては、初回の面接などにおいても相手を傷つけてしまうことが多い。また、エンドオブライフケアとして死の問題が取り上げられ、アドバンスケアプランニング(人生会議)と称して、これらの話し合いのプロセスを持つことが推奨されている。当事者とともにゆったりと話し合いをすることは大切なことであるが、ここでも当事者ファーストでないことが日常茶飯事にある。

 特に診療の場面では、環境に馴染めずにせん妄を起こすことが高齢者にはしばしば認められる。薬剤で抑制することやミトンや抑制帯などを使用することも多い。そもそも患者さんが望まない診療行為を実施することは、ある意味では虐待となってしまうのである。単なる命の延長ではなく、満足感の高い暮らしをしていただくためには、どのような場所でどのように過ごすことが望ましいのか、それらについて十分な話し合いが必要である。

 体が不調である場合、患者自身がどこまで医療によってそれを癒したいと考えているのか。多少不調であっても、自分が自由に判断して、ゆったりと生活ができることを望む人は多いのではないか。当事者の声を聞きながら、なかなか理解し得ない部分までケアの質を深めていく必要がある。まずケア従事者は、自分の内面に潜んでいるスティグマ(偏見差別の根幹にあるもの)やパターナリズム(父権主義)と向き合わなければならない。

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総務部事業振興課

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