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第38回地域医療現地研究会

6月21日・22日、第38回地域医療現地研究会がホテル日航ノースランド帯広で開かれ、全国から160名を超える医療・福祉関係者らが出席した。メインテーマは「大空と大地の中で育もう 地域包括医療・ケアの未来〜住み慣れた地域で完結する地域医療を目指して〜」。1日目は、施設視察研修として足寄町の足寄町国民健康保険病院及び高齢者等複合施設「むすびれっじ」などを視察。2日目は全体討議を行い、高齢化や過疎など課題先進地域と言われる北海道の町村部の取り組み事例を通して、未来の地域医療のあり方について考える時間となった。

主催/公益社団法人全国国民健康保険診療施設協議会 公益社団法人国民健康保険中央会
   北海道国民健康保険診療施設連絡協議会 北海道国民健康保険団体連合会

 21日の開講式、主催者代表挨拶では、公益社団法人全国国民健康保険診療施設協議会会長の小野剛氏が「今回のテーマは厳しい環境の中で地域包括ケアを実践する国保直診のありたい姿に直結する。足寄町の視察を今後の地域医療を考える上でぜひ参考にしたい」、公益社団法人国民健康保険中央会理事長の原勝則氏が「少子高齢化や人口減少、過疎化など社会状況が変化する中で、工夫して地域医療、介護の確保に取り組む施設や地域を視察することで課題解決のヒントを見つけ活用していただきたい」と述べた。

 また、概要説明では、足寄町国民健康保険病院院長の村上英之氏から施設視察研修先の概要について説明があり、その後バス4台で足寄町へ移動。道中、広大な牧草地を必要とする放牧酪農を営む佐藤弘子牧場を見学し、足寄町が「日本一面積が大きい町」であることを体感。続いて、北海道立青少年体験活動支援施設ネイパル足寄にて昼食及び特産品である放牧酪農チーズの試食を楽しみ、施設視察研修先である足寄町国民健康保険病院と、高齢者等複合施設「むすびれっじ」を視察した。施設視察後、足寄町の特産物である「らわんブキ」を生産する鳥羽農場にて足寄町農業協同組合と足寄農畜産物加工開発研究会が提供するらわんブキ料理の試食を行い、足寄動物化石博物館などを見学した。帯広市に帰着後は会場のホテルにて交流会が開催され、足寄町雌阿寒太鼓保存会の演舞や歌手の松山千春さんのビデオレターが披露された。

 

 翌22日は、全体討議として十勝地方の医療関係者が実践発表を行った。以下に、全体討議の3名の発表要旨を掲載する。

職員と住民が一体となり、病院の財政改革を実現

 病院が存続しない限り、住み慣れた地域での医療完結はあり得ない。当院が取り組んできた病院存続のための改革を紹介する。

 当院は2000年頃まで超優良経営だったが、12年から7年連続で収支赤字となり、17年には銀行から融資を受けざるを得ない状況にまで陥った。町民に必要とされる病院に変わらなければ経営も改善しないとの考えで院内改革は始まった。20年に私が院長に就任した際、改革を進めるために「できることから始めよう」から始まる経営理念を作成した。

 経営コンサルタント(NPO法人病院経営支援機構)の力を借り、院内の部門間や病院内外との意思疎通を図ることから始まった。そして町民にも芽室病院をもっと知ってもらおうと自前の広報誌やSNSを活用したり、志摩市民病院を参考に病院まつりも開催した。

 職員の横のつながりを作るために「できることから始めようプロジェクト」を始めた。鹿児島県の出水総合医療センターをお手本に、多職種が各自、自発的にワーキンググループを結成して企画や実行を行うというものである。部門を超えて共に活動することで、仕事でも互いに助け合ったり問題の解決を相談したりするように変わってきた。

 次に、「自律経営プロジェクト」を導入した。これは部門別の原価管理会計システムであり、いわば縦の経営改善策である。各部門の活動成果(収益)を数字でわかりやすく示すことで職員の経営参加を促し、ボトムアップで環境変化に耐えうる経営基盤をつくるというもの。島根県の公立邑智(おおち)病院から指導を受けて導入した。このシステムで職員それぞれの経営感覚が養われたうえに、改善のためにさまざまな提案がなされ勤務体制も改善してきた。部門のみで解決できないことは連携が必要だが、先に横のつながりができていたことは大きかった。横のつながりと縦の改革が組み合わさって初めて成果につながったと感じている。

 20年からはコロナの補助金の恩恵もあり黒字となっているが、改革の成果としては医業収益が増加している。しかし、現状に満足していては停滞につながると思っており、遠隔医療やセル看護提供方式を導入するなど、これからも改革を続けてゆく。

 当院には、「公立芽室病院をみんなで支える会」がある。当院が医師減少で大変だった2011年に町民が自ら立ち上がり作られた会である。病院を守るために住民がすべきことを考えて、非常に強い思いで活動してくれている。多岐にわたる活動があり、毎年町民向け講演会を企画され、テーマを決めて当院のさまざまな部門のスタッフが講演し、町民とつながる機会をいただいている。2023年は「最期を自宅で過ごしたい」というテーマで複数のスタッフが講演を行い、逆に実際に在宅看取りを経験したご家族の体験談を聞かせていただいたり、毎年町民にとっても病院にとっても有意義な機会である。

 訪問診療・看護・リハビリを拡充する目的で、訪問車両購入のためのクラウドファンディングも行い、目標の600万円に対し687万1,000円の寄付をいただいた。そのうち65%は町民が直接病院に持参され、いかに病院が町民に支えられているかを実感させられた。これからも、町民の信頼を得られる病院であり続けられるよう努めていきたい。

医療者として、地域の魅力と元気を次の世代に

 斜里町出身の私は大学卒業時、家庭医を育てる医療法人北海道家庭医療学センター設立を機に家庭医の道を目指そうと入職。2001年に当院に赴任し翌年所長に就任した。3年前から更別村と中札内村、隣り合う2つの農村の地域医療を、家庭医療専門医や若手の専攻医、私を含め5.5名の体制で一体的にマネジメントしている。そこで、2村の地理的な条件や医療環境を前提に、私がどのようなビジョンを掲げて医療を行っているか、そこからのまちづくりへの展開について紹介する。

 外来医療では、地域のかかりつけ医として乳幼児から高齢者まで、外傷からメンタルヘルスまで幅広く対応している。救急医療は24時間対応を20数年続けており、「行けばなんとかしてくれる」という感覚を住民の皆さんも持っている。入院医療は、帯広市の高次医療機関と地域の橋渡し、退院支援に力を入れ、多職種と連携している。在宅医療はグループホームを中心に、個人宅への訪問診療もICTを利用した在宅医療介護の連携ツールを活用し、密な情報共有を行って、自宅での看取りにも対応してきた。

 また、北海道家庭医療学センターの総合診療・家庭医療専門研修プログラムの研修施設として、若手医師の指導も長年続けている。

 この20数年間に診療所での取り組みによって、町のありように変化がみられるようになった。かかりつけ医として幅広い世代の住民を診て、医療、介護、教育の分野の人と関わってきたことで、地域の多彩な人間関係が築かれ、地域医療に対する深い学びが育ってきたと感じているし、若手もそれに関心を示してくれるようになった。そして、地域の役職を担う中で、地域医療に対するビジョンを住民の皆さんと共有していくようになった。

 私が地域で語るビジョンは、「地域を元気なまま残したい」というもの。高齢化が進んでも、サービスを利用しながら健康な状態で長く過ごせる地域を目指したい。そのためには、高齢者の相互扶助や社会参加を進める状況が生まれたらと考えている。このビジョンが共有されていくことで、関係者の献身的な活動によって地域をより良く変えていく人たちが現れ、実際のまちづくりにつながると思う。

 例としては、在宅医療・介護連携推進事業の取り組みと歯科医師の誘致、ICTを利用した医療介護連携システムの導入、さらに「生涯活躍のまち構想」で、障がいのある方や高齢者などの居場所づくりが挙げられる。

 また、デジタル田園都市国家構想交付金を得られたことで、島根県の会社からコミュニティナースの若者が3人来てくれ、独立して村内に株式会社を立ち上げた。人と人をつないで、相互の助け合いを生み出すような彼らの仕事に私も注目している。他にも、23年に始まった2村共催の介護入門者研修がある。これら一つひとつに取り組んで、地域を耕していきたい。

 どんな地域にも魅力があり、それを元気なまま次の世代に託したい。地域の家庭医としての私のビジョンを共有することで、地域に多彩な変化をもたらし人材が育成されることを期待している。

地域連携で介護予防、在宅ケアの支援を

 日本一の広さを誇る足寄町は、高齢化率が高く、その対策が重要な課題となっている。私たちは、医療を中心に患者に必要な状況を見極め、必要な居場所で満足できるケアを提供する地域包括システムを構築している。当院では、帯広市などの専門病院と連携しながら、患者の回復期と生活期を住み慣れた地域で安心して過ごせる地域完結型の地域医療を行っている。

 2014年に高齢者等複合施設「むすびれっじ」を設立。認知症高齢者グループホーム、地域交流施設、生活支援長屋、小規模多機能型居宅介護施設を設置し、それらを自由に行き来できる。町オリジナル施設の生活支援長屋は、高齢者や障がい者が在宅復帰や冬期、農繁期など支援が必要な時に介護度に関係なく一時的に入所でき、さらに近接する公営住宅の住民とも地域交流施設で交流できる。
 足寄町では現在構築している地域包括ケアシステムと健康寿命を伸ばす施策を掲げ、限られた医療機関の人材を支援して在宅医療へいかにシフトするか、高齢者の社会参加をいかに支援していくかが重要と考えている。

 その中でリハビリテーション(以下「リハビリ」という。)の役割は非常に重要である。心身の機能を向上させ生活環境を整え、地域生活を可能にするためにも、救急から在宅支援に至るまで継続的なリハビリが必要と考えている。キーワードは「連携」「在宅」「地域」。当院ではリハビリテーション科の業務内容として9つの業務を挙げている。中でも短期集中リハビリ入院は、機能が低下する寸前に入院し、集中的な管理を行って、在宅に戻る取り組みである。その時期を見極めるため、保健師やケアマネジャー、家族との連携をとっている。

 また、入院患者には家族や介助者などと行うリハビリカンファレンスを重視し、在宅生活を可能にするプログラムを検討している。退院前の患者には、理学療法士、ケアマネジャー、福祉用具業者と一緒に在宅訪問をし、安全に過ごせるように対策を立てている。家の状況に合わせて動作指導や、手すり・スロープの設置など環境整備を適切に行うことで、スムーズな在宅生活を可能にしている。当院では、介護施設へのリハビリ支援も行っている。我々理学療法士が介護施設に出向き、介護士に運動や動作の指導を行い、リハビリ難民をつくらない対策をしている。

 足寄町では、当院が唯一の訪問リハビリ対応施設なので、リハビリが必要な家庭にできるだけ行くようにしている。やはり家で過ごすと患者の表情も柔らかくなり、安心できる場所でのケアが大きな力になると実感することも多い。

 珍しいことだが、当院では隣町の陸別町にリハビリ支援も行っている。陸別町にはリハビリ有資格者が不在のため、ケアマネジャーから相談があり、2018年度から支援を開始した。効果を実感するとともに、陸別町と当院の連携も深まったと感じる。

 北海道内のリハビリ有資格者の6割が札幌とその周辺に集中している。当院では今後、地域の実情や特性に合わせて、既存の制度を超えた支援活動を広げていきたい。それが、住み慣れた地域で完結する地域医療の実現に結びついていくものと考えている。

助言者コメント

公益社団法人国民健康保険中央会 
              理事長 原 勝則 氏

 今回の3事例は、地域医療を実現する上では非常に不利な状況の中、それぞれ創意工夫をして取り組んでいることが共通していると感じる。これからの社会保障は、最後は地域づくりが重要になってくる。そのキーマンは首長である。首長の意向や熱意がまちを動かしていく。それは、自治体間連携においても同様である。そして、住民の強力なサポートもキーではないかと感じた。
 
公益社団法人全国国民健康保険診療施設協議会 
                                       副会長 大原 昌樹 氏

 発表者の皆さんが地域を守る信念のもとで行動されていると感じた。人口減少地域や過疎地域では特例基準や診療報酬の優遇を今後も議論していきたい。そして、医療現場の職員や行政など、さまざまな人と一緒に地域を考えていくことが重要ではないかと思う。
 当協議会では、「国保直診 ありたい姿に関する報告書」を公表した。本日の発表の内容もこれにマッチしたものだったと思う。これをもとに全体総括と各項目について職員の意見を聞き、フィードバックや発表をされると実践の方向性が見えてくると思う。
 その後、会場の参加者からの質疑応答が行われ、「少子化で人口減少が続く現状では、新しい日本の形は究極のコンパクトシティーではないか」「地域包括ケアは、万一施設がなくなったとしても、地域にケアの哲学が残るように、我々が今からどう関わっていけるかが大事だ」など質問や意見が出され、活発な議論が繰り広げられた。
 
 また、閉講式では島根県国民健康保険診療施設協議会会長である大谷順氏から挨拶があり、来年度の研究施設である自身が院長を務める雲南市立病院についての紹介があった。その後、本年10月4日・5日に岩手県において開催する第64回全国国保地域医療学会について学会長の磯﨑一太氏から挨拶があり、開催案内がされた。

 最後に、公益社団法人全国国民健康保険診療施設協議会副会長の海保隆氏から閉講の挨拶があり、2日間の研究会は幕を閉じた。

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