特集 下川町

持続可能な地域づくりの観点から、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った事業を展開する自治体も全国的に増えてきた。その中でも、SDGsの概念が生まれる前から持続可能な地域づくりを合言葉にまちづくりを進めている下川町は、2017年12月に第1回ジャパンSDGsアワードで内閣総理大臣賞を受賞、2018年6月にはSDGs未来都市および全国で先進的な10事業が選ばれた「自治体SDGsモデル事業」に選定され、注目を集めている。
今回の特集では、前半は下川町のSDGsを中心とした行政の歩みと具体的な取り組み、後半は医療・介護の分野を持続化させるための取り組みを紹介する。
産業衰退と人口減少による強い危機感
まりは、1980年代に遡る。基幹産業が農業、林業、そして金や銅を採掘する鉱業だった下川町。人口のピークは60年代で1万5,000人以上にもなった。その後、木材の輸入自由化、鉱業の衰退により、70年代から人口が急激に減少して80年代には5,000人台に。そこで地域活性化のため、住民グループ「コロンブスの卵」が立ち上がり、現在は全道的に広まったアイスキャンドルを日本で初めて北欧から導入するなど活動していた。さらに人口が4,000人台にまで減少した1998年に、「下川産業クラスター研究会」が発足。役場職員、森林組合職員、地元の事業者、住民の有志が集まり、地域資源の森林を最大限生かすことなどを柱とした「経済・社会・環境の調和による持続可能な地域づくり」を掲げた活動を開始した。現在のSDGsのテーマを、90年代から提唱していたことになる。詳細は後述するが、森林資源に付加価値を与える木質バイオマスエネルギーを中心とした活動により、現在まで続く取り組みの基礎を築いた。2007年に制定した町の自治基本条例には、「持続可能な地域社会の実現を目指す」と明記。上記の取り組みにより、2008年には政府から「環境モデル都市」、2011年には全国11市町村の一つとして「環境未来都市」に選定された。
SDGs未来都市としての歩み
これが町の総合計画の将来像として位置付けられたため、行政の全ての分野(福祉・教育・生活環境・産業分野など)はこの将来像を目指す形となっている。「みんなで挑戦しつづけるまち」「誰ひとり取り残されないまち」など7つのゴールを柱に、経済、社会、環境の具体的な取り組みに落とし込まれた。また、これらのビジョンを町内外に発信することでブランド力の向上を図り、SDGsを共通言語として町内外のさまざまな人、企業、都市とのつながりを作っている。


森林による産業構築、再生エネルギー
最も特徴的な「環境」の取り組みは、木質バイオマスエネルギー
の活用である。下川町産業クラスター研究会の発足を契機に森林資源の新たな価値創造として取り組まれ、2001年から2003年に町が地域新エネルギービジョンを策定。それに基づき、2004年に町内の五味温泉に北海道で初めてバイオマスボイラーを導入。切り株や端材といった林地残材などを熱エネルギーに活用する地域熱エネルギー自給の仕組みを作った。
2009年には木質バイオマス原料製造施設と役場周辺地域熱供給施設を建設し、原料供給体制の構築とバイオマス熱供給を拡大。以後、さらに熱供給施設を増やし、現在は10カ所の熱供給施設から30カ所の施設へ供給している。この取り組みにより、町の熱エネルギー自給率は約50%、公共施設では約70%にもなった(日本全体では2021年で13.3%:環境省発表)。また、エネルギー転換による経費削減効果は年間約3,800万円に上り、削減額はボイラー等の更新費用と子育て支援の費用に充てられている。CO2排出量は2013年比で20%削減を実現。2022年には「ゼロカーボンシティしもかわ」を宣言し、2050年までに二酸化炭素排出量が実質マイナスとなる「カーボンネガティブ」の実現を目指している。
また、「経済」の側面としては、森林を核とした森林総合産業の構築に取り組み、就労・雇用の確保、地元製材業者への木材安定供給を目的として、毎年50haの植林を行い60年周期で育成し伐採する循環型森林経営システムを構築した。2003年には環境保護の観点で管理された森林を認証するFSC認証を取得し、森林に付加価値を付与。さらに木材利用では、地域材を活用した住宅の建設、トドマツ精油等の製品の開発・販売によって木材を余すところなく使い、経済を循環させる取り組みも進められている。その他にも、森林を活用した活動で地域活性化を図る町内のNPO法人・森の生活と連携し、認定こども園から高校まで子どもの成長に合わせて15年間一貫の森林環境教育に取り組み、幼少期から森林と郷土の産業を学ぶ教育環境を作っている。

超高齢化社会に対抗する一の橋バイオビレッジ構想
そこで、2012年から超高齢化問題(社会)・低炭素化(環境)・新産業創造(経済)の同時解決をコンセプトに一の橋集落の再生に着手。再エネ熱自給を核として、集住住宅や地域食堂、住民センターなどを集中させ、徒歩圏内で生活機能が賄え、個人による除雪が不要な仕組みを構築した。新産業創造では、特用林産物栽培研究所を設置し菌床椎茸の生産・販売を開始。さらには誘致企業による試験研究施設も設置され雇用が創出されている。また、地域おこし協力隊が任期後に定着して起業。オーガニック化粧品の製造、販売が行われているほか、木工作家が移住し創作活動が行われている。
こうした取り組みを進める中で、集落人口は高齢者の減少などにより減少傾向にはあるものの、若者の移住などにより生産年齢人口は維持され、高齢化率は2021年に29.2%にまで下がっている。一の橋バイオビレッジの集落再生モデルは、今後の下川町全体の課題解決モデルとして推進されている。

SDGsによるブランディングからさらなる取り組みへ
の下川町産業クラスター研究会から下川町版SDGsまで、20年以上にわたる取り組みの成果として、2010年代には人口減少が緩和、転入超過の年も出てきた。また、SDGsの枠組みによるブランディングにより、企業との連携も生まれた。戸田建設とは「地方創生に関する包括連携協定」を締結。一の橋地区にイチゴ栽培ハウスを造設し、障がい者支援施設との農福連携による雇用の創出を進めている。三井不動産グループでは社員研修の一環として下川町でSDGs研修を実施し、循環型森林経営やゼロエミッションの木材加工、SDGsを取り入れたまちづくりについて学んでいる。吉本興業とは連携協定を締結し、プロジェクト「下川町株式会社」を創設。住民が参加し「しもかわ森喜劇」の制作と上演、品川ヒロシ監督による下川町を舞台にした映画の制作などが行われた。さらに、移住・定住活動を目的とした「一般財団法人しもかわ地域振興機構」を2024年3月に設立。町が100%出資し、職員を2名派遣。移住促進や起業支援、地域人財バンクや空き家バンク
の活用を通して移住・定住の促進を目指している。SDGsが国連で採択されてから、町の行政に反映させる取り組みを担当してきたSDGs推進戦略室長の蓑島豪さんは、「SDGsを取り入れたメリットとして、これまでの取り組みを17の目標から見直すことで新たな課題の発見や気づきがありました。ここまで取り組みを進めてきましたが、まだ課題は山積しており、下川町のSDGsに終わりはありません。下川町SDGsの進捗を確認しながら、町民の方々、町外の方々とも連携してさらに取り組みを進めていきたい」と総括と抱負を語ってくれた。
町営の医療・福祉機関が連携して持続化の方策を
特に医療機関の経営改善や人材確保は、他の自治体と同様に課題となっている。町では2009年から「町立下川病院改革プラン」を策定して経営改革に取り組んできた。また、特別養護老人ホームやデイサービス等の
福祉施設も同様に課題を抱えているため、2023年度から町立病院を始めとする医療機関、福祉施設の施設長など関係者が集まり、維持する方法を数回にわたり議論している。「まだ明確な答えは出ていませんが、民営化を含めて方向性を模索しています。人材不足への対策として、例えば従来は各施設ごとに雇用されている看護師を、町営の施設間で短期間の異動ができるようにするなど、フレキシブルな人事によって人材不足を補う方法が提案されています。そこは町内に各種施設があるメリットを活用していければ」と保健福祉課の高原義輝課長は今後の展望を語る。 特定健診受診率の向上、重症化予防の取り組み
また
、集団健診時には次年度の申し込みを受けてリピート率を上げる、データ分析によりターゲットを絞って未受診者への地道な声掛けをするなども功を奏している。データ分析では重症化予防に向けた訪問・声掛けも行っており、「外来に定期受診してもらう、入院させない」ための取り組みを優先。「小さな町なので、私たちの方で対象者の顔ぶれを把握できており、健診結果はお会いして説明させていただきます。データを一緒に見ながら体の状態を知っていただき、こちらから強くすすめるのではなく、ご自身が気づいてどう調整していくかを選択してもらえるよう心掛けています」と保健福祉課主幹の蓑島美奈子さん。その成果の一つとして、町内の透析患者数は2008年度の19人をピークに年々減少し、現在は9人。国保被保険者からは慢性腎臓病による新規の透析患者が7年間出ておらず、町民の健康増進はもとより町の医療費抑制にもつながっている。下川町は名寄保健所の管轄区域で、域内の町村との連携も強い。保健師のリーダーが集まり連絡会議を年数回実施しており、日ごろから情報共有をしている。例えば、糖尿病性腎症重症化予防事業では、圏域内共通のプログラムを作成し、医療機関の協力を得て実施している。「町が持続可能になるには、人が持続可能になることが重要。出来る限り病気や障害にならないための取り組みを進めるのが私たちの役割です」と保健係長の野崎愛美さんは話す。
高齢者がいつまでも元気に、安心して暮らせる町に
「介護予防・日常生活支援総合事業」では、町内で足りないサービスを補い、試行錯誤しながら必要な人に届く事業を展開している。例えば、利用者の自宅に食事を届ける配食サービスは、2023年度に前年から45%増で15人に752食を提供する一方、下川町共生型住まいの場「ぬく森」に来所してもらい、栄養士が考えた温かい食事を提供する給食サービスは2022年で2人、2023年は0人と利用が少なかった。
一般介護予防の運動教室などは人気が高く、カーリンコンは2023年に57回実施し、前年から29%増の延べ681人が参加した。疾病により生活機能が低下した人が体操や外出などのリハビリを週2回行う「元気教室」は特に人気で、2023年度は53名が登録し、106回開催、前年の2倍の延べ1,427人が参加。作業療法士が担当して効果が出ていることや、ハイヤー会社と連携して送迎を行っていることが人気の要因と考えられ、受け入れ体制や送迎体制の強化が課題となっている。

さらに、認知症になっても安心して暮らせる地域づくりを目指すために、社会福祉協議会に「生活支援体制整備事業」を委託して認知症支援コーディネーターを設置したり、生活支援・介護予防に関する資源調査を行い、ニーズと資源をマッチングしている。厚生労働省は2025年までに、認知症サポーターがチームを組み、認知症本人や家族に対して支援を行う「チームオレンジ」を全市町村に設置することを目指している。下川町内の取り組みとしては、2023年にボランティア6人で「しもかわ認知症の人と家族を支える会・ぽけっと」が発足。また、町に事務局を置く認知症サポーターの会「キャラバンメイト・ロバの会」では認知症サポーター養成講座の開催も行っており、現在は214人が認知症サポーターとして登録。「認知症になっても住民が普通に接していける町、認知症を感じさせない町になることで、町全体がチームオレンジになることを目指したい」と地域包括支援センターの平田美和さん。小さな町だからこそ町の人たちが一体となって支えていこうという姿勢か垣間見える。



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