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時流

ポストコロナ時代の面会のあり方

   北星学園大学文学部 心理・応用コミュニケーション学科教授 大島寿美子 

 Aさんの母親は昨年、脳梗塞で急性期病院に入院した。約1ヶ月間の入院期間中、Aさん兄弟は仕事が終わるとほぼ毎日面会に通った。病院の面会時間は、平日は午後3時〜8時、休日は午後1時〜8時。新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に変更されたのに伴い、面会制限がほぼ撤廃されていた。家族は面会中、母親を励ますだけでなく、指の運動を一緒にしたり、廊下を一緒に歩いたりして回復を応援した。母親は毎日の面会を楽しみに治療に向き合った。

 ところがその後に転院した回復期リハビリテーション病院では、面会は週1回、午後2時半〜4時まで、1回1名15分しか許可されない。仕事のある家族は平日に面会に行くことができなくなった。週末ごとに面会に行くが、15分では荷物を渡して用件を話すぐらいしかできない。病院での母親の様子がわからず、家族の心配は募る一方だった。1か月半後、母親は退院し、自宅で過ごすことになった。

 脳梗塞の後遺症はほとんどなく、家族も母親もようやくもとの生活に戻れると期待した。しかし退院直後から母親の体調はすぐれず、徐々に悪化していった。1年後、最初に入院した急性期病院とは別の病院に入院することになった。

 Aさんが驚いたのはその病院の面会時間である。1年前に入院していたリハビリ病院と同様、午後の早い時間に15分しか許されず、しかもリハビリ病院では可能だった病室に入ることもできない。会えるのはナースステーションの前のみ。Aさんは入院時に荷物を整理してあげることもできず、「看護師さんにお願いしてね」と母親に伝えることしかできなかった。

 面会時間に間に合うよう仕事をやりくりしてかけつけるAさんに母親は心細そうに「家に帰りたい」と訴えた。「看護師さんに頼んでも『できることは自分でやって』と言われるので遠慮してお願いできない」。Aさんが看護師にそのことを尋ねると「力を衰えさせないためです」との返事。看護師の言うことは大事だが、もう少し本人の気持ちに寄り添ってくれてもいいのではないか。Aさんはそう思ったが、何も言えず、とにかく早く退院させてあげようと心に決めた。

 ようやく迎えた退院。荷物をまとめてあげることはできず、ナースステーションで待っていると、母親が不自由な体で荷物をいくつも持って現れた。その姿を見てAさんは母親が不憫で泣きそうになった。

 家に帰る途中、母親は「入院しなければ良かった」と何度もつぶやいた。Aさんはなんと答えていいかわからず黙って悲しみをこらえていた。今以上に母親の体調が悪化し、また入院しなければならなくなったらどうしたらいいのか。母親は「もうあの看護師たちには会いたくない」と言う。今後のことを考えるとAさんの気持ちは沈むばかりだ。
 

 
 以上は面会をめぐるある患者と家族の語りである。コロナ禍で入院患者との面会は大きく制限されたが、新型コロナウイルスの法的位置付けが5類に移行して1年半となる今年11月時点でも、多くの病院で面会制限が続く。いまも面会が全面禁止の病院もある。面会制限が緩和されたものの、週1回、1回2人、15分までなど、頻度や人数、時間制限がある病院も多い。新聞報道やインターネット上の議論を見ると、病院によって対応はまちまちのようだ。10月にこの問題を取り上げた朝日新聞によれば、同じ都立病院でも面会規則が大きく異なるという。

 昨年秋、厚生労働省は「面会の重要性と院内感染対策の両方に留意し、患者及び面会者の交流の機会を可能な範囲で確保するよう」医療機関に検討を求めた。感染予防をしながら面会をどう実現するか、医療機関はどこも苦慮しているのだろう。その答えが病院により異なることが、面会規則の大きな違いとなって現れている。

 新聞や雑誌の記事、インターネット上の体験談からは、家族の悲痛な声が聞こえてくる。ガラス越しでしか面会できない、小さな子供が親に会えない、面会できないうちに親の認知症が進んでしまった、登録した家族しか面会できない、終末期の家族と面会できない、面会制限で死に目に会えなかった、なんとか時間を作って海外から帰国したのに会わせてもらえなかった等々。面会制限は人権侵害だという意見や、感染予防だけでなく外の目が入らない方が楽だから面会制限をしているのではないかといぶかしむ声も出ている。5類移行から1年半以上が経過しても続く厳しい面会制限に怒りや理不尽さを感じる人、倫理的に問題だと考える人が増えていることは確かなようだ。

 Aさんは感染予防のために面会制限がまだ必要なら、それは仕方がないと思っている。しかし、それなら身の回りの世話や優しい励ましといった、コロナ禍以前に家族が担ってきた支援を病院でしっかりやって欲しかったと話す。

 海外ではコロナ禍の面会制限の影響に関する研究が進められている。ある論文には、面会制限は家族の精神的苦悩だけでなく、医療従事者の道徳的苦痛も引き起こしたと述べられていた。もしかしたらAさんの母親が入院した病院のスタッフも、面会制限による気楽さを感じるどころか、家族的なケアの喪失を埋められないつらさを感じていたのかもしれない。

 家族は単なる訪問者ではなく、患者のケアを担うチームの一員であり、医療従事者にとってはパートナーであるはずだ。その観点から、ポストコロナ時代の面会のあり方について速やかに検討を進めて欲しい。

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