ここからサイト内共通メニュー

ここから本文です。

特集

      

はじめに

 2005年、日本循環器学会や日本呼吸器学会、日本口腔衛生学会など9つの医歯学会が合同で作成した「禁煙ガイドライン」において「喫煙は“喫煙病(依存症+がん、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病など)”という全身疾患であり、喫煙者は“積極的禁煙治療を必要とする患者”」「喫煙すること自体が病気」と定義され1)、翌2006年から禁煙治療に公的医療保険が適用されることになった。仮に、「嗜好品」であれば、医療保険が適用されるはずがない。ちなみに、広辞苑第7版でも「嗜好品」から「タバコ」は削除され(2018年)、ウィキペディアでは自分でコントロールすることができない「嗜癖品」として扱われている。

I. タバコに起因する2つの依存

 タバコに対する依存性は、①「ニコチンに対する身体的依存」、②タバコがないと物足りないと感じる「心理的依存」の2つが強固に結びつくことで発生し、そのため禁煙を困難にしている。
 筆者もかつて典型的な「タバコ依存」の患者であった。浪人時代に喫煙を始め、大学に入ってやめられなくなり、呼吸器内科に入局しても禁煙できず、喫煙できる循環器内科の医局に行って教授に隠れて吸うほど重症の患者であった。今思うと、口臭や衣服についたニオイ(三次喫煙)で教授には私が喫煙者であることが分かっていたはずであるし、循環器内科の非喫煙者に受動喫煙の加害者になっていたことを猛省している。

1) ニコチンに対する身体的依存
 図1はフィリップモリス社による自社製品の紙巻きタバコ(マールボロ)と後述する加熱式タバコ(アイコス)を喫煙した場合の血中ニコチン濃度の推移である2)。いずれも、8分後に最高値となり、その半減期は約2.5時間であることが示されている。筆者がかつてそうであったように、喫煙者は一定レベルの血中ニコチン濃度を維持するために頻回にニコチン補給が必要な状態に陥っている。「依存」という観点からは加熱式タバコも同様であり、加熱式タバコの使用者もニコチン依存症として禁煙治療に誘導することが必要であり、公的医療保険も適用される。

2) タバコに対する心理的依存
 生活や仕事の様々な状況で喫煙していると、タバコがないと「口寂しい」「間が持たない」「物足りない」と感じるようになる。これが、心理的依存である。喫煙者との産業医面談では「仕事のストレスがあるから禁煙できない」と言い訳する人も多い。仕事中は誰しも1〜2時間おきにお茶を飲んだり、トイレに行くなど小休憩をとる。小休憩のタイミングは血中ニコチン濃度が低下した状態であり、喫煙によって脳内でドパミンやセロトニン、アセチルコリンが放出され、脳内報酬回路が刺激され多幸感が得られる。小休憩によるストレス解消とニコチン切れのストレス解消は区別ができないため、多くの喫煙者は「仕事のストレスがあるから禁煙出来ない」と勘違いする。
 また、ニコチン濃度が低下すると脳機能が低下する。その状態で喫煙すると脳がアセチルコリンにより活性化されて良いアイデアが浮かぶ。その結果、「タバコを吸うと仕事がはかどる」という現象が発生するが、それは本来の能力に戻るだけである。逆に言うと、禁煙から1~2時間後、ニコチン濃度が低下して脳機能が低下している状態はデスクに着いてはいるが本来の能力が発揮できていない潜在的なサボりということになる。

II. 職場におけるニコチン依存の問題点

 法律、ガイドライン、および、労働衛生の3管理、快適職場づくりの観点から、職場に喫煙者(ニコチン依存症の患者)が存在することの問題点について記述する。
 2020年に全面施行された改正健康増進法では、「望まない受動喫煙」をなくすことが求められている3)。具体的には、第一種施設(学校、病院、行政機関等)は敷地内禁煙、第二種施設(国会、一般企業、飲食店等)は屋内全面禁煙とする、あるいは、少なくとも喫煙専用室以外の共用スペースを禁煙とすることが求められている。

1) 作業環境管理:受動喫煙
 2000年代、排気装置を設置し、出入口で0.2m/sの空気の流れを発生させる喫煙室を設置することが推奨されたが、実際に運用してみると喫煙室の外でもタバコの燃焼によって発生する微小粒子状物質(PM2.5)が上昇することが認められ、タバコ煙の漏れは防止できないことが分かった(図2)4)
 喫煙室からタバコ煙が漏れる原因を以下に示す(図3)。
・ドア(蝶番式)のフイゴ作用による押し出し
・喫煙者の入退室による出入口の気流の乱れ
・肺に残った煙の禁煙区域での呼出

 特に、肺に残った煙の排出は約4分間続くため、喫煙後4分以内に職場にもどることができる場合、呼気に含まれる煙で受動喫煙が発生する。
 また、喫煙室の清掃を業者に委託している場合、担当者が高濃度の受動喫煙に曝露されることが防止できないという問題点も残る(図4)5)
 屋外に喫煙所を残した場合、風下25メートルでも粉じん計で検出できる「望まない受動喫煙」が発生する(図5)6)。さらに、清掃業者が「望まない受動喫煙」に曝露されることは屋外であっても変わりはない(図6)。改正健康増進法では、屋外であっても「望まない受動喫煙」を防止することが求められており法律を遵守できない。

 以上より、改正健康増進法が求めている「望まない受動喫煙」を完全に防止するためには、職場や公共施設を敷地内全面禁煙とした上で敷地周囲での喫煙も禁止する以外に手段はない。

2) 作業管理、労務管理、快適職場の観点:勤務中の喫煙禁止
 勤務中に喫煙ができる職場では、タバコ離席による職場離脱が発生し、以下の問題が発生する。
・喫煙者本人の作業効率の低下
・タバコ離席から戻ってくるまで待たねばならないことによる組織全体の効率低下
・タバコ離席中の電話や来客の応対等による周囲の負担
・喫煙後のタバコ臭による三次喫煙の被害
 三次喫煙とは、喫煙後の口臭や衣服から発生するタバコ臭であり、気管支喘息や化学物質に過敏な体質の者にとっては発作や気分不良の原因となる。持病がない人においてもタバコ臭は快適な職場づくりの妨げとなる。なお、喫煙後のタバコ臭は、2010年の厚生労働省健康局長通知で「残留タバコ成分」と定義され、注意喚起が行われている。
 喫煙前後の呼気・口臭に含まれる総揮発性有機化合物(Total Volatile Organic Compounds: TVOC)を測定したところ、喫煙前の状態に戻るまで45分必要であった(図7)7)。このデータが元になり、北陸先端科学技術大学院大学では喫煙後45分間の敷地内への立入が禁止され、イオングループでは職場に入る45分間前(出勤前、昼休憩)の喫煙の自粛を求めるなど、「45分間ルール」として広まりつつある。特に、サービス産業や営業職では「接客者がタバコ臭いと購買意欲が半減する」という調査もあり8)、企業に損失を与えかねない問題として検討するべきである。

3) 健康管理:喫煙関連疾患の予防
 健康日本21(第二次)で示されたように、高血圧と喫煙は日本人の主要な死因であり、喫煙による超過死亡数は毎年18万7千人である(図8)9)。その医療費は企業や国の健康保険に余分な負荷となるため、喫煙関連疾患(がん、脳卒中、心筋梗塞など)に罹患する前に禁煙治療費を補助して禁煙に誘導する企業が増えてきた。

4) 在宅勤務における問題点
 新型コロナウイルスの蔓延後、在宅勤務を取り入れる企業が増え、自宅で喫煙することによる近隣住宅への「望まない受動喫煙」が社会問題としてクローズアップされている。図9は集合住宅の2階のベランダでタバコを燃焼させ、上のフロアと同じフロアの隣家のベランダと窓を開けた室内でタバコ煙の濃度を測定した結果である10)。上のフロアだけでなく、同じフロアの隣家でもベランダから室内にタバコ煙が流入することが確認された。
 戸建て住宅の庭先で喫煙する場合、少なくとも半径25メートルにある住宅への加害者となる。台所の換気扇の下で喫煙した場合は、排気に含まれるタバコ煙によって同様の近隣住宅への被害が発生する。
 改正健康増進法では、屋外でも受動喫煙を発せさせない努力義務が規定されている。在宅勤務を行っている企業では、社員が近隣の家庭に対して「望まない受動喫煙」の加害者とならないように、喫煙する社員をゼロにすることは企業の社会的な責任と考えるべきである。

5) 加熱式タバコ
 令和4年の国民健康・栄養調査では、20〜30代の喫煙者の半数以上が加熱式タバコを喫煙していることが報告されている11)。加熱式タバコは粉末にした葉タバコを使用しており、紙巻きタバコから発生するほとんどの有害物質は、たとえ濃度が低減されていたとしても発生する。実際、紙巻きタバコの喫煙者に発生することが知られている急性好酸球性肺炎を発症し、ステロイドの大量投与、あるいは、人工心肺・エクモで救命された複数の重症例が報告されている。

 加熱式タバコのエアロゾルをラットに鼻部曝露した動物実験では、紙巻きタバコの曝露と同程度の肺気腫が発生したこと、また、心血管系の反応は同じであったこと、加熱式タバコを喫煙した妊婦から生まれた子どものアレルギー発症率が増えたことなどが報告されている。
 厚生労働省のホームページに公開されている2018年時点の「加熱式タバコにおける科学的知見」において、発がん性物質であるホルムアルデヒドは紙巻きタバコの15〜25%発生することが記載されており、長期間の使用で発がんするリスクも懸念されている(図11)。

 加熱式タバコの新聞等の広告では屋内で使うことが可能であることがアピールされているが、部屋を暗くして特殊なレーザー光線を照射すると周囲の空気を汚染することは明らかである(図12)。それを裏付けるように、加熱式タバコを使用する父親と同居している非喫煙の妻と子どもの尿からニコチンの代謝物(コチニン)と遺伝子障害の指標が検出されたことが報告された。
 「有害性化学物質を95%低減」をアピールすることで急速に蔓延した加熱式タバコであるが、毎年19万人の死者を発生させる紙巻きタバコを比較すること自体がナンセンスである。


6)最終的な解決策は「喫煙率ゼロ」
 2024年5月の日本産業衛生学会において、某大規模事業場(2,020人)の画期的な喫煙対策が優秀演題賞を受賞した12)。2020年で喫煙者367人(15%)に対して以下の施策を実施した。
・全体から個人への介入⇒本人、上司、人事部の三者面談
・社長から直筆署名入りの卒煙メッセージ
・採用、昇進、定年後継続雇用の要件を非喫煙
 2021年の喫煙率は9.2%、2022年は5.6%、2023年4月に2.2%、同年11月には0.3%(7人)まで下がり、2024年5月の学会発表時にはさらに1名が禁煙し、3年間で367人の喫煙者は6人にまで減少した(図13)。
 同様の対策をすべての企業が採用すれば、健康日本21(第三次)で掲げられている成人喫煙率12%の早期達成に貢献できると思われる。

おわりに

 タバコ1箱の値段が500〜600円(2024年12月)となり、公共的な空間や職場での喫煙が制限されても喫煙している人は、「吸いたいから吸っている」のではなく、「やめられないから吸っている」のである。
 改正健康増進法に伴って発出された「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン(2019年)」では、本稿で紹介したような良好事例を衛生委員会等で紹介すべきことが記載されている13)。社員の健康は企業にとって資産である。仮に、心筋梗塞や脳卒中でベテラン社員が倒れた場合、新人を入れても戦力にはならない。
 逆に、喫煙者がゼロになれば、タバコ離席がなくなり職場全体のパフォーマンスが上がること、タバコ臭がない快適な職場環境になること、帰宅後や在宅勤務日に近隣家庭への加害者とならない、など良いことづくめである。すべての企業・団体が「吸わない社員100%」を掲げたタバコ対策を推進して欲しい。

参考資料:
1) 禁煙ガイドライン. 藤原久義,阿彦忠之,飯田真美,他.Circ J 2005; 69: 1005-1124.
2) Picavet P, Haziza C, Lama N, et al. Ludicke F, Comparison of the pharmacokinetics of nicotine following single and ad libitum use of a tobacco heating system or combustible cigarettes. Nicotine Tob Res. 2016; 18: 557- 563.
3) 厚生労働省.健康増進法の一部を改正する法律.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html(2021年11月30日閲覧)
4) 大和 浩. たばこ規制枠組み条約に基づいたたばこ対策の推進 第8条 たばこの煙にさらされることからの保護.保健医療科学 2016; 64: 433-447.
5) 大和 浩.職場の喫煙問題の現在.産業医学ジャーナル 2019; 42: 4-10.
6) Yamato H, Mori N, Horie R, et al. Designated smoking areas in streets where outdoor smoking is banned. Kobe J Med Sci. 2013: 59; E93-E105.
7) 大和 浩. 受動喫煙の影響に関する最新情報. 保健師ジャーナル. 2019; 75(02): 105-112.
8) 喫煙に関する意識調査. https://service.jinjibu.jp/news/detl/13012/ (2024年12月2日 閲覧)
9) 厚生労働省.健康日本21(第二次)最終評価報告書.
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001077214.pdf (2024年12月2日 閲覧)
10) Yamato H, Kato T, Jiang Y, et al. Secondhand smoke from a veranda spreading to neighboring households. J UOEH 2020 ; 42 : 335-338.
11) 厚生労働省. 令和4年 国民健康・栄養調査. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42694.html (2024年12月2日閲覧)
12) 久我佳奈, 末成美奈子, 小林玲子, 他. 「喫煙率ゼロ」に向けた3年間の取り組みとその成果〜全社員への感謝を込めて〜. 産業衛生学雑誌. 2024; 第66巻 臨時増刊号: p429.
13) 厚生労働省. 職場における受動喫煙防止のためのガイドライン(令和元年7月1日 基発0701第1号)
https://www.mhlw.go.jp/content/000524718.pdf(2024年12月2日 閲覧)

お問い合わせ

総務部事業振興課

本文ここまで

ここからフッターメニュー

ページの先頭へ戻る