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時流

健康と幸福について思うこと

北海道千歳リハビリテーション大学 特任教授 森  満

 

 最首 悟(さいしゅ さとる)氏をご存じだろうか。東京大学教養学部で長く助手として過ごした生物学者で、和光大学名誉教授でもあり、現在86歳である。1960~1970年代の反公害運動のオピニオン・リーダーであり、水俣病に関する実地調査団の団長としても活動した。その頃には多くの著作があり、1970年代後半に医学部の公衆衛生学の分野に進んだ私は、その主義・主張に強く影響を受けたことを覚えている。

 その最首氏が2024年4月に「能力で人を分けなくなる日.いのちと価値のあいだ」(創元社)というタイトルの本を出版した。私は懐かしさから、この本を直ちに購入した。4番目のお子さんである星子(せいこ)氏現在46歳は、ダウン症に重度の知的障害を持ち、目が見えず、言葉を話さず、立つこと、歩くこともわずかで、一人では食事も排泄もできず、悟氏の奥様の五十鈴氏が世話をして、今日に至っている、という。

 著書の中で、最首氏は現在、ご自身は星子氏に支えられて、星子氏に頼って生きている、と書いている。そしておそらく、星子氏は五十鈴氏によって支えられていて、五十鈴氏は悟氏に支えられているのだと思う。このご家族を通して、健康とは何か、幸福とは何かを考えてみることは、とても重要であると思う。

 多くの人は重い・軽い、の違いがあっても、自分が何らかの病気や障害を持っていたり、あるいは、家族の中に病気や障害を持っている人がいたりするのではないだろうか。現在はそうでなくても、いつそのようになるかわからないという不安を持っている人も多いと思う。

 ところで、オランダの女性医師マフトルド・ヒューバーらヨーロッパの研究者が中心となり、2011年にBMJという医学専門誌に健康の定義に関する論文を掲載し、普及している。そこでは、「健康とは、社会的、身体的、感情的な問題に直面した際に、なんとかやりくりする力である」(松田 純訳)、と定義されている。

 また、アリストテレスや老子などのいろいろな哲学者や思想家は、洋の東西を問わず、紀元前から、「幸福は、自ら足れりとする人のものである」と記述している。そして、欲望を捨てて、現状に満足して生きている者は、精神的にも豊かである、と解釈されている。

 以上の健康の定義や幸福の概念から、ご本人がどう思っているかは分からないが、私から見て、最首氏ご一家は、家族として健康を維持し、幸福に暮らしていると思う。現在の日本では、サプリメントの宣伝を始めとして、健康に関する過剰な情報にあふれている。また、現状に不満感や不足感を抱かせて、誘惑するような広告にあふれている。そうした中で、「なんとかやりくりして健康を維持し、現状に満足していて幸福である」と思われる、最首氏ご一家のような暮らしを、理想として思い描いていくことが必要ではないだろうか。

◆お知らせ 
 令和7年1月号より、北海道千歳リハビリテーション大学 特任教授の森満先生が本欄の御執筆をしていただけることになりました。
 森先生におかれましては、札幌医科大学公衆衛生学講座教授としてご活躍され、その後、北海道千歳リハビリテーション大学学長を経て同大学の特任教授として人材育成に努めており、平成29年には札幌医科大学名誉教授の称号を授与されております。

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総務部事業振興課

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