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時流

肥満の原因としてのサバイバル・スイッチ

北海道千歳リハビリテーション大学 特任教授 森  満

 私は数年前から左下肢のしびれ感が生じ、寝ていても痛みがあったので、昨年リハビリの専門家に相談したところ、肥満を解消することと、自転車に乗って下肢の筋肉を鍛えること、という指摘を受けた。肥満度にはBMIという指標が用いられ、体重(Kg換算)を身長(m換算)の二乗で割った値である。日本人の場合、BMIが25以上であると肥満と判定されるが、その頃の私のBMIは27であり、明らかに肥満であった。現在は25未満になるように努めている。
 食事として摂取されるカロリー(摂取エネルギー)が、活動によって消費されるエネルギー(消費エネルギー)を上回ると、その差が身体に蓄積されて、体重が増加し、肥満が生じる。従って、摂取エネルギーを減らす、すなわち、飲み食いする量を減らすか、運動などを行って活動する量、つまり、消費エネルギーを増やすことが、体重を減らすことにつながる。
 肥満がリスクを高める疾患としては、糖尿病、痛風、高血圧、虚血性心疾患、脳血管疾患、肝臓病、慢性腎臓病、いくつかの部位のがん(大腸がん、乳がんなど)、腹圧性尿失禁、睡眠時無呼吸症候群、そして、私の罹った関節痛、筋肉痛、神経痛など、数多くある。肥満は、喫煙とともに生活習慣病の2大リスク要因といっても過言ではないだろう。
 2024年8月に、米国コロラド大学医学部教授リチャード・J・ジョンソンによる著書の訳本「肥満の科学. ヒトはなぜ太るのか(NHK出版)」が出版された。その中で、肥満の原因となる摂取エネルギーの増加は、生物学的にサバイバル・スイッチ(生存のスイッチ)が入ってしまうことで起こり、そのスイッチが入る要因として、甘味、塩辛い味、うま味を感じる食品の摂取が挙げられるという。その中でも甘味を感じる果糖の摂取や体内での果糖の生成が、サバイバル・スイッチが入る最も重要な要因である、というユニークな説を示している。
 果糖はブドウ糖と似た単糖類であり、果物や蜂蜜に多く含まれているが、ほとんどの人は、ショ糖(砂糖)や人工甘味料から果糖の大部分を摂取している。「果糖はレプチン抵抗性を引き起こして空腹感をもたらし、私たちにより多く食べさせて体重を増やさせる」(91ページ)。レプチンは、脂肪細胞から分泌され、脳に満腹感を伝え、もうこれ以上食べるな、という指令となるホルモンであるが、果糖はその働きを抑制して、サバイバル・スイッチを入れて摂取エネルギーを増加させるというのである。
 従って、サバイバル・スイッチが入らないように気を付けて食生活をすることが肥満の防止になるわけだが、具体的には、甘味、塩辛い味、うま味を感じる食品の摂取を減らすこと、中でも甘味を感じる果糖が入っている砂糖や人工甘味料の摂取を減らすこと、朝・昼・晩のいずれかの食事を週に何回かでも抜くという断続的断食を行うことなどが示唆されている。サバイバル・スイッチが入らないように意識しながら食事を楽しむことが、摂取エネルギーの減少、ひいては肥満の防止につながるという。

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