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特集 江別市

 江別市は、市内に4校の大学がある環境を生かし、産官学連携により食の健康機能に関わる研究や、デジタルを活用した健康づくりを進めている。また、同市は2017年に「健康都市宣言」を表明し、「すべての市民が生涯を通じて健康に過ごせる健康意識の向上と健康づくりの推進に努める」とし、この宣言を機にさまざまな事業を展開している。今回の特集ではそれらの取り組みの中で、北海道情報大学を拠点に食の機能性を検証する「食の臨床試験 “江別モデル”」、アプリを開発して市民の健康づくりに取り組む「江別市生涯健康プラットフォーム推進事業」、「健康都市宣言」を契機とする健康づくりへの取り組みを紹介する。

食の臨床試験 “江別モデル” 

 北海道情報大学を拠点とし、市民ボランティアが協力して食品の健康機能を検証する「食の臨床試験 “江別モデル”」が確立されている。

 北海道情報大学では、2007年に健康情報科学研究センターを設立。現学長で医学博士の西平順教授がセンター長に就任し、情報技術を活用した食と健康づくりの事業に取り組んでいる。設立当時は食の機能性や付加価値を評価する方法が議論される中、文部科学省の知的クラスター創成事業「さっぽろバイオクラスター構想 “Bio-S”」(2007年度〜2011年度)に採択され、この中で「食の臨床試験」を開始した。この取り組みには、北海道、札幌市、江別市、公益財団法人北海道科学技術総合振興センター(略称:ノーステック財団)などが参画している。

 「食の臨床試験」は、あらかじめ登録した市民ボランティアが被験者となり、健康情報科学研究センターに所属する医師、看護師、管理栄養士、学術担当がスタッフとして携わっているのが特徴。食品の試験を依頼したい企業などが食品を提供し、市民ボランティアの中から参加基準に適した人を選出して試験を行う。

 被験者は3カ月前後にわたり毎日該当の食品を摂取し、試験期間中に定められた日程で血液検査などを行って効果を検証する。担当する医師や研究者が試験の計画立案、被験者の検査、解析、論文発表まで一貫して行っている。これまでさまざまな北海道産食材や企業の製品について検証、機能性表示に活用された(2024年3月末までの累計132件)。市は2010年に北海道情報大学および食品加工研究センター(道立、現在は独立行政法人)と「⾷と健康と情報に係る連携と協⼒に関する協定」を締結し、市民ボランティアの募集などの面で協力している。
 

食の機能性検証だけでなく健康管理に寄与 

 健康情報科学研究センターでは、「食品の機能性を検証し商品開発に貢献するだけでなく、市民の健康の見守り、見直しにも役立てたい」との考え。臨床試験に参加する際に血液検査を実施し、健康アドバイスを行うほか異常値があれば医療機関の受診を勧奨する。大学に設置された生命倫理委員会による審査も行い、倫理的安全性を担保している。市はイベントやセミナー、後述の「フード特区」事業を通して「市民の健康づくりにつながる事業」とアピールし、初年度は1,000人程度だったボランティアを江別・札幌市民約15,000人まで増やした(2024年3月現在)。

 「食の臨床試験」が市民ボランティアの健康意識の向上、生活習慣の改善につながっていることも、健康情報科学研究センターの研究論文で明らかになっている。臨床試験に協力した人を対象に、試験参加後の意識変化について尋ねると、82.4%の人が健康意識が高まっていると回答した。また、「意識している生活習慣」については、「食事」がトップで48.7%、次いで「体調」「運動」が挙がった。臨床試験の継続参加に伴い、臨床検査値にも変化が見られ、1回目参加時と4回目参加時の収縮期血圧、血糖値、中性脂肪いずれも改善していた(西平順、佐藤浩二、アンチ・エイジング医学、17(6):17-24、2021)。
 

「フード特区事業」に位置付け

 2011年から、「北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区(フード特区)」に江別市が参画。これは、「EU・北米経済圏と同規模の成長が見込まれる東アジアにおいて、『北海道』をオランダのフードバレーに匹敵する食の研究開発・輸出拠点とする」ことを目的とした事業。農業生産地の帯広・十勝地区、漁業生産地の函館地区、そして「食品の安全性・有用性の分析評価・研究開発及び食品加工の拠点」として札幌・江別地域が位置付けられた。江別市は「食の臨床試験」を中心にこの事業に携わった。

 同事業により「食の臨床試験」の市民ボランティアを拡充、臨床試験も広く周知し、道内はもとより道外からも多くの企業から依頼を受けるようになった。また、2013年に北海道独自の機能性表示食品制度として「ヘルシーDo」が創設され、2021年8月末までに128商品を認証。そして、海外販路開拓支援や商談会の開催により、市内企業の輸出額が2012年度の21,210千円から2021年度には220,527千円と約10倍に拡大した。

 フード特区は2022年3月31日をもって特区の指定が解除されたが、江別市経済部企業立地推進室企業立地課長の遠藤毅史氏は、「食の臨床試験が拡大し検証された食品リストが増えたこと、江別市内外の企業が⾷品の機能性を科学的に証明する⼿段を提供し、これにより新商品開発や輸出促進ができたことが大きな成果」と語る。


※「食の臨床試験」で機能性が実証された食品の例
北海道産食材=大豆(新種)、韃靼ソバ(新種)、マイタケ(新種)、タマネギ(新種)、アスパラガス、カボチ
ャ(新種)、チコリ(根)、長ネギ、道産米(富化米)、カズノコ
加工品・成分=西洋カボチャ種子油、オリゴノールおよびそれらを使用した商品
 

蓄積した情報を健康管理へ活用

 「食の臨床試験」や「フード特区」の事業を進めるうち、「蓄積したデータを分析することで市民の健康管理に活用できるのではないか」という考えから、江別市と北海道情報大学との連携協定のもと「健康管理プラットフォームeヘルスステーション」を開発した。血圧、体重、体組成や活動量を端末で測定しデータ管理を行うもので、ICカードで個人認証してデータを蓄積させる。2024年11月まで市役所など市内9カ所に端末を設置、市民約1,200人がID登録した。
 また、このeヘルスステーションと連動させて利用者のスマートフォンで健康状態を確認できる「食と健康レコメンドシステム LiR(リル)」も開発。PCやスマホで変化を確認でき、健康診断の結果を入力してAIによる健康アドバイスを受けることができる。この時はアプリ開発段階で、市民によるユーザー登録は次の事業で行うことになる。
 

江別市生涯健康プラットフォーム推進事業

 2017年の「健康都市宣言」から「食の臨床試験」や「フード特区」などの取り組みを踏まえ、内閣府が推進する「デジタル田園都市国家構想推進交付金(TYPE2)」の採択を受け、2023年度から江別市主導で包括的健康管理・促進サービス「江別市生涯健康プラットフォーム推進事業」を展開している。「eダイアリー」「eライフトレーナー」「生涯健康マルシェえべつ市場」の3つのアプリを活用して市民の健康づくりを推進するプラットフォームを実装しようというもの。
 

eダイアリー、eウォッチ(健康記録)

 スマホアプリ「eダイアリー」とウェアラブル端末「eウォッチ」を連動させ、日記、運動、摂取カロリー、体組成表など自分だけの記録を蓄積できる。画面がごくシンプルに作られており、簡単に入力できる(アプリ制作はmyFinTech株式会社)。
 「eウォッチ」については、無償貸与するとして募集し約9,000人に貸与した(2025年2月現在)。登録者は50〜70歳代が多く、募集はSNSの広告配信、チラシ、フリーペーパー、新聞広告、イベント時の告知のほか、「健康ポイントを貯めると地元の特産品のプレゼント」等のキャンペーンを行い登録を促した。
 アプリの使い方が分からない高齢者などに説明するための手順書を作り、担当企業によるサポート窓口も設置した。今後は蓄積したデータを活用して、地区や年代ごとの傾向を分析してアプローチできる可能性にも期待している。
 

ライフステーション、eライフトレーナー(健康管理)

 北海道情報大学で研究開発した「健康管理プラットフォームeヘルスステーション」「食と健康レコメンドシステム LiR(リル)」の成果を受け継ぎ、血圧や体重などの測定ができる端末「eライフステーション」と、利用者の健康情報を一元管理し食と健康のアドバイスを行うアプリ「eライフトレーナー」を開発、市民への実装を行った。
「eライフステーション」は市役所や保健センターなど市内4カ所に設置。「eライフトレーナー」には「eライフステーション」での測定結果のほか、血液検査など健康診断の結果を反映でき、お薬手帳の機能も付いている。また、ストレスチェック、食べ物の写真による栄養評価といった機能も搭載されており、約750人が利用している(2025年2月現在)。 
 

生涯健康マルシェ えべつ市場

 ヘルシーDoや機能性表示食品など、健康に配慮した食品を集めたECサイトを目指して「生涯健康マルシェえべつ市場」を開設した。江別市の特産品、各自治体からの出品、全国大手メーカーからの出品の3段階構造を想定しており、現在は江別を中心とした出品内容だが、他の自治体も参画してバラエティー豊かなサイトに育てることを想定している。
 「江別市生涯健康プラットフォーム推進事業」の今後の展開として、同事業を担当する江別市企画政策部デジタル政策室参事の天明屋聡氏は、「最初は興味を持ってくれる市民も多く注目されると思いますが、一時的なもので終わらせず継続して利用されることが課題。そのために参画している大学や企業も含め、アプリの機能をどのようにバージョンアップしていくか検討していきたい」と話す。

江別市の健康推進に関わる事業の展開と課題

 「食の臨床試験」や「江別市生涯健康プラットフォーム推進事業」などに参加する市民の健康意識は高まる一方、特定健診の受診率は28.2%と全道平均を下回っており(2023年度)、関心が薄い層への呼びかけが課題となっている。
 健康に関する体験型イベント「えべつ健康フェスタ」は、「健康都市宣言」を表明したことを機に2017年から開催。市内の大学や団体が出展し、食事栄養バランスチェック、⾻密度や⾎糖値の測定(骨密度・血糖値を測定する機械は国保連合会より貸与)、体⼒チェックなど気軽に受けられる各種チェックや健康相談のほか、若い人にも幅広く関心を持ってもらおうと肌年齢チェックなども行っている。「開始以降、コロナ禍の時期を除き400人から500人の参加者を集めており、また市と大学や参加団体との関係性の維持につながっている」と、江別市健康福祉部健康推進室参事の小関高人氏が語る。

 また、同じく「健康都市宣言」を機に、中学1年生に向けて「生活習慣病予防教室」を開始。各校に保健師が出向き、年1回講話を実施し若いうちからの生活習慣形成を目指している。

特産品である野菜の摂取を増やす

 生産量が全道トップクラスのブロッコリーを始め、野菜の生産が盛んな江別市。新鮮な野菜が手に入りやすい直売所が住宅街の近くに多数ある環境を生かし、野菜摂取を促進する取り組みを進めている。
 市の管理栄養士が簡単に作れる野菜レシピを考案し、約100種類を掲載した「野菜たっぷりレシピ集」をウェブサイト上に掲載。レシピを葉書サイズに印刷したものを市のイベントなどで配布している。また地域柄、家庭菜園をしている家庭が多く、「夏は家庭菜園で作った野菜や近所の人からもらう野菜を食べているが、冬は野菜が不足してしまう」という市民もいる。「野菜の食べ方がマンネリ化してしまう」という人にも、この野菜レシピが好評だという。
 そのほか、飲食店や小売店などで野菜を食べたり購入したりできる店舗を「えべつベジタブルライフ協力店」としてウェブサイトに掲載、店頭にステッカーを貼って表示しており、約100店舗を登録している。

・野菜レシピ紹介
 https://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/soshiki/kenkousuishin/59725.html
・えべつベジタブルライフ協⼒店
 https://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/soshiki/kenkousuishin/67388.html

特定健診受診勧奨、重症化予防

 市の保健センターでは、特定健診受診勧奨、重症化予防に向けて取り組みを続けている。病院や診療所のみなし健診の実施については、規模の大小もさまざまな病院や診療所が多数ある中、アンケート調査等を行い実施状況の把握や促進に努めている。
 また、未受診者の中で条件に該当する人に受診勧奨資材の送付、電話勧奨、また低受診率地区の個別訪問も年間300件程度を目安に順次行っている。そのようにコミュニケーションを取る中で、「受診方法が分からない」という声が上がったため、これまでも広報誌折込で配布してきた市の検(健)診の受け方を案内するパンフレットを、年代や性別による対象者や検(健)診内容についてチャートで分かりやすく解説する内容に変更した。
 保健センター管理係主査の今野槙雄氏と、保健センター主査の佐藤由美子氏は、「他の自治体などを参考に、みなし健診の促進や受診勧奨策を考えています。定期通院中の方や、無関心層にどう訴えるかが課題」と、引き続き地道な活動を続けていくとしている。
 

産官学連携による江別市と北海道情報大学の研究の発展

 江別市と北海道情報大学では、他にもさまざまな研究成果を地域に還元する産官学連携の取り組みを続けている。江別市、北海道情報大学、江別工業団地協同組合が「市内事業所等の健康経営の普及促進及び健康づくり推進のための食と健康と情報に係る連携と協力に関する協定」を締結。働く人の健康増進を通じて企業の生産性向上と健康経営の促進を図るためセミナーの開催や情報提供を行う。
 また、2023年度より江別認知機能コホート研究「江別いきいき未来スタディ」を開始。江別市、北海道情報大学、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、株式会社島津製作所、一般社団法人セルフケアフード協議会の5者で構成、食と認知症の関係性を10年にわたり調査研究し、軽度認知障害予防に生かすというもの。江別市民から公募した約1,200人を対象とし、血液バイオマーカー、食生活習慣アンケート、運動機能やモーションキャプチャによる歩行姿勢などを活用した健康調査を通して軽度認知障害の早期発見や予防などの解決策の提案を目指す。
 北海道情報大学 健康情報科学研究センターで地域支援コーディネーターを務める地球環境科学博士の伊藤直仁氏は、市民の健康づくりには産官学連携の取り組みが不可欠と強調。「国や自治体の競争的資金などのプロジェクトは3〜5年で終わりますが、その後も継続して取り組みを進めるためには、各組織・団体が単独で進めることが困難です。産学官連携はもとより、協同組合や団体も含め地域で協力し、食・健康・情報を活用して地域の健康づくりに役立てていきたい」と話す。また、江別市から発信して他の地域や全国、海外への展開を目指しているとし、「住民の健康づくりに取り組みたい自治体にぜひ協力したい」と呼び掛ける。

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総務部事業振興課

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