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第28回 北海道国保地域医療学会

 北海道国民健康保険診療施設連絡協議会と本会主催の第28回北海道国保地域医療学会が6月14日、ホテルポールスター札幌で開かれた。今回のメインテーマは「ウェルビーイングを高める地域包括ケア・システム構築に向けて」。奈良県明日香村国民健康保険診療所の管理者・所長を務める武田以知郎氏が特別講演を行ったほか、ポスター発表やシンポジウムを通じ、道内各地から集まった国保診療施設関係者と市町村国保関係者等が「ウェルビーイング」をキーワードとして、北海道のより良い地域医療に向けて相互研鑽を深めた。
 開会にあたり、主催者を代表して北海道国民健康保険診療施設連絡協議会長の村上英之氏(足寄町国民健康保険病院院長)があいさつし、「地域の医療崩壊が危惧される中、地域医療を存続させるには、効率重視ではなく地域住民が求めるものに応えるため、多職種によるチーム医療の輪を広げていくことが大切」と述べた。来賓として、北海道保健福祉部健康安全局国保担当局長の宮森隆之氏、北海道国民健康保険診療施設開設者協議会長の硲一寿氏がそれぞれ祝辞を述べた。

 特別講演では武田以知郎氏が、映画『明日香に生きる』でも取り上げられた地域医療と在宅医療のあり方、現代の健康とウェルビーイングについての考え、総合診療医やコミュニティナースなどを活用した地域共生社会の方向性、「病を診る・人を診る・地域を診る」地域医療の今後の展望について語った。
 
ポスター発表では、雄武町国民健康保険病院長の秀毛寛己氏による『採血dataをみて……』を始め、5名が研究成果を披露した。
 
最後に行われたシンポジウムでは、北海道保健福祉部地域医療推進局地域医療課長の川上禎之氏が、地域包括ケア・システム構築に向けた北海道の取り組みを紹介。続いて北海道立羽幌病院副院長の佐々尾航氏、白老町立国民健康保険病院 病院経営監の西科純氏、合同会社Grace.I訪問看護ステーション恵代表社員・管理者の井形恵氏が、それぞれ地域での取り組み事例を発表した。

(以下、特別講演とシンポジウムの発表要旨、ポスター発表の発表者とテーマを掲載)

特別講演

へき地における地域医療の役割  

 2023年、私が40年にわたり歩んできた地域医療の道のりを描いたドキュメンタリー映画『明日香に生きる』が公開され、2024年には日本医師会の第12回「赤ひげ大賞」をいただき、一つの節目となる栄誉を頂戴した。私は自治医科大学を卒業後、奈良県のへき地の診療所に勤務し、以来ずっと地域医療に携わってきた。
 私たちの診療所がある明日香村は、歴史と自然が共存する風光明媚な土地である。私はよく、「診療所はコンビニのようでありたい」と話している。これは利便性の話ではなく、赤ちゃんからお年寄りまで、発熱や肩こり、指に棘が刺さったなど日常的な身近なニーズに応えるということ、そして、病院は特別なニーズに対応する百貨店的な医療機関であり、どちらも必要なもの、小さな診療所だからこそできる、顔の見える関係性を大切にした医療があると信じている。
 ここで私たちが掲げた診療所のスローガンは、「そうだ、診療所いこう」。これは単に病気を治す場所ではなく、困ったときに立ち寄れる「心の拠り所」でありたいという思いから。実際に、ペットロスや介護の悩み、認知症に対する不安など、さまざまな相談が寄せられる。私たちはそれらに真摯に向き合い、生活と人生の全体を支える「地域の保健室」のような役割を担っている。

映画の話と在宅医療

 映画『明日香に生きる』は、奈良県在住の溝渕雅幸監督から、明日香村の住民の生き方、人生のしまい方、地域医療そして研修医の学びなどを撮りたいとの申し出があり撮っていただいた。まったりとした雰囲気の中で、さまざまな人生の選択や、この地域でどう暮らすかなどが描かれている。地域医療の現場では、「在宅医療」が重要な柱である。近年は国も在宅医療に舵を切っており、高齢になっても病気になっても障がいがあっても、時々入院、ほぼ在宅と、地域包括ケアシステムにより住み慣れた家で過ごすことをサポートすることが課題となっている。そのため、医療だけでなく日常生活を支える医療、治す医療から治し支える医療が求められてくる。
 病院は難しい病気の治療ができ、24時間体制で医師や看護師が対応でき、検査もすぐ行える。その代わり規則があり、食事や飲酒、付き添いや面会も制限される。それに対し在宅は、難しい治療はできず、緊急対応に時間がかかる。その代わり自分の生活リズムや習慣を保て、食事や飲酒もある程度自由、他の患者さんに気を遣わず、家族も病院通いが不要、孫や友人、ペットとも会いやすく、趣味も楽しめる、施設はこの中間くらいと考えている。
 昨年の暮れに、自分の母の看取りを経験した。脳梗塞を患い、施設を経て病院に入院していたが、最期を迎えるにあたり、私が嘱託をしている特別養護老人ホームに転院させてもらった。病院では寝たきりで点滴をしていたが、特養では座らせて、口から食べさせてもらい、入浴もすると肌のツヤが変わってきた。家族や親戚、友人にも全員会えた。3週間ほど私は泊まり込み、スタッフにも見守ってもらい看取りをすることができた。このまま病院にいたら亡くなってから呼ばれることになったと思う。病院のリソースには限りがあり、その人のADL(Activities of Daily Living:日常生活を送る上で必要不可欠な基本的な動作のこと)を高めることは難しいが、介護施設は生活面をバックアップしてくれるため、少し元気になって母らしい最期を迎えられたと思っている。
 患者が今の状態で退院し在宅に移行できるかどうかは、カンファレンスで検討される。映画には、多職種による退院カンファレンスの場面も出てくる。多職種が連携するには、それぞれが個別に動くのではなく、その人のためにワンチームになることが重要である。
 また、「物語に寄り添う医療」を私は大切にしている。認知症で徘徊したり暴れたりする患者さんにも物語がある。ゴルフ練習場の経営者だった患者さんが、寝たきりで言葉も発しない状態から、ゴルフの話をすると起き上がって話してくれるなど、物語の中で寄り添っていくと落ち着くことは私たちもよく経験している。
 映画には、沖縄育ちの女性が明日香村に嫁ぎ、その人の母が認知症になったため村に呼び寄せた話が出てくる。沖縄で離島ナースをしていた経験を持つ訪問看護師が、その患者さんのために沖縄の音楽をかけると、起きて踊り出し、家族も驚いていた。その後、次第に老衰が進んで起き上がれなくなり、かろうじて指先だけが動く様子を見て、看取りが近づいたサインを感じるという場面が描かれている。

健康とウェルビーイング

 ウェルビーイングという言葉が注目されるようになった。これは、単に病気がないことではなく、身体的・精神的・社会的に満たされた状態を意味する。従来の健康寿命を伸ばす医学モデルではなく、もっと広い意味で健康に長生きすることを考えたい。私が医師になったころは成人病予防に食事や運動が大事だと言われていたが、それに加えて生きがいや人間関係、ふれあい、ゆとり、自己表現などが重要になっている。
 人の健康には個人の要因だけでなく、住む家や周りの環境など、社会的要因が影響を与える。健康の社会的決定要因、つまり貧困、教育格差、交通弱者、孤立といった問題にも目を向ける必要がある。病気や障がいがあっても家族に囲まれてニコニコしている人と、病気や障がいはなくても文句ばかり言って周囲から疎まれている人、どちらが健康的な生き方をしていると言えるか。私は、健康の前に「幸福」があり、医療はその一助であるべきだと考えている。いくら検査値が改善しても、家に帰った途端に元の生活に戻り、孤独や経済的困難にさらされていては意味がない。

社会的つながりとおせっかい

 高齢社会が進み、病院は病気を治すだけでは経営がさらに厳しくなると予想される。病院が地域とつながり、地域と一緒に守っていく発想が必要である。社会的処方やコミュニティナース、暮らしの保健室といった活動は、地域で暮らしに寄り添う医療・介護の実践例として各地で芽吹きつつある。島根県雲南市、北海道更別村などが先進地であるコミュニティナースは、病院ではなく地域の中の暮らしに近い場所で医療につなぐきっかけづくりをしている。社会的処方はイギリスで発達しており、患者の課題解決のために地域の活動やサービスなどの社会的資源につなぐ方法。暮らしの保健室活動は、身近なところに看護師がいて、気軽に相談に行けるというもので、全国に広がりつつある。
 明日香村では、以前テレビにも取り上げられた尼僧で公認心理士、緩和ケアの専門家でもある佐々木慈瞳さんに診療所や健康福祉センターに週1回来て歩き回ってもらい、さまざまな相談に乗ってもらっている。そして、後でその話をカルテに全部書いてくれるので、5分診療では聞けなかった深い話を把握できる。
 地域共生社会を紹介するのに分かりやすい例を紹介する。滋賀県東近江市にある永源寺診療所では、花戸貴司医師を中心に「地域丸ごとケア」に取り組んでいる。認知症の人が地域を徘徊していると周囲の人が報告してくれるといった仕組みが出来上がっている。地域共生社会の中で医療に何ができるかというと、先ほど述べたウェルビーイングやコミュニティナース、社会的処方、総合診療医の養成がキーワードになると考えている。
 ウェルビーイングな地域を作るには、その人の物語や強みを生かし、高齢者がずっと元気で地域の中で社会に関わってもらう「じじばばのエンパワメント」が有効である。明日香村では地域包括ケアに向けて、診療所が医療と介護の拠り所になり、人が集まるような地域の灯台になるように、医療介護の拠点整備事業に着手している。

地域の医療を

 地域医療を語る時に、よくレンズに例えて話す。400倍の望遠レンズは病院の原因などを探るため、40倍の等倍レンズは体全体のことや高齢者総合評価などを見るため、4倍のマクロレンズは家族や地域のケアを見るためと使い分け、医師は400倍や40倍、看護師やケアマネージャーは4倍レンズと役割分担している。自宅に帰った時の生活まで考えて患者を退院させる見方が重要である。
 その時に、総合診療専門医の「病を診る・人を診る・地域を診る」という視点が必要になる。先日、北海道の国保の方々と一緒に島根県の雲南市立病院を視察に訪れたところ、地方都市の281床の病院に13名の総合診療医がいると聞いて驚いた。同時期に、県内の済生会江津総合病院が医師の高齢化と人材不足で危機にさらされている中、島根大学附属病院の総合診療科から医師3名を派遣して助けられたという事例が発表された。雲南市立病院からも総合診療医が民間の病院と国保診療所に1名ずつ派遣され、地域をカバーしている。北海道の更別村にも総合診療医が5名いると聞く。私がへき地医療に携わった中核の病院である南奈良総合病院でも、へき地に応援を送っている。

地域医療をナッジ理論で広げる

 最後に、医療の業界でもよく使われるナッジ理論について紹介する。「ナッジ」とは、小さな誘導の意味。行動経済学に基づいて人々の自由な意思決定を尊重しつつ、選択肢の提示方法や環境を変えることで望ましい方法へ後押しする手法で、「ついついやる」がキーワードになっている。国保の特定健診受診でも、日曜に健診を設けるとか、受診する前提で物事を動かすなどの方法で使われている。
 最近は、地域医療をナッジ理論で救う方法を試みている。「医師、看護師が辞めて大変だから来てくれないか」「医師・看護師を確保したい」と言われても、そんな大変なところに行きたい人はなかなか現れない。そこで個人の選択を強制せずに少しの誘導を加えるナッジ理論の発想で考えると、「一緒に地域を楽しみませんか」あるいは「住民がすごく温かい」などプラスの部分があれば、来てくれると考えている。学生や研修医のうちに地域に行くと、村ごと歓迎してくれて住民と仲良くなり、そこの地域が大好きになってそこで働きたいという人も出てきている。
 映画の制作や学生・研修医を受け入れる中で、地域医療に関してメッセージを伝えている。地域医療という言葉一つでも、「地域で」単に医療をしているのではなく、「地域の」住民と一緒に必要な医療をしていく、この「で」と「の」で地域医療は大きく変わってくる。地域の医療をしていくためには、住民の生活の目線に近づいて一緒に取り組むような作戦を病院としても展開していけたら面白いと考えている。
 

ポスター発表

シンポジウム

地域包括ケアシステム構築に向けた北海道の取組
北海道保健福祉部地域医療推進局地域医療課 課長 川上 禎之 氏
 2040年を見据え、2026年度策定する予定の「新たな地域医療構想」は、外来・在宅、介護連携なども新たな地域医療構想の対象にするという方向性が示された。検討会の中でも「高齢者救急」と「在宅医療」が主要な論点の一つとなっていた。
 道が2025年に策定した医療計画では、在宅医療圏を39圏域と設定し、在宅医療圏ごとに「積極的な役割を担う医療機関」、「連携を担う拠点」の整備を進めていくことにした。市町村がこれまでも実現できていることは継続、市町村にとってハードルの高い部分は一緒に取り組むという枠組みとなった。
 年間400万円という補助金を新たに設け、「連携を担う拠点」の方々には事務作業をメインにお願いし、補助金の半分を拠点の方々の人件費に活用。「積極的な役割を担う医療機関」は在宅医療を行う医師を想定し、事業のアイデア出しや講師など、マネジャー兼プレーヤーの役割をお願いし、謝金や経費に残りの半分を使っていただく想定としている。現在、道内各地の医師会、先生、市町村の方々へご説明にお邪魔している。
 ファミリークリニックさっぽろ山鼻は、都会でも医療が届かない人たちが多くいるという問題意識を持ち、地域の方々との交流イベントを開催したり、子どもたちの医療体験の場を設けるなど多彩な活動を行っている。
 由仁町立診療所は、医師会の事業「おたがいさまネット」で主治医不在時には連携医が助言や往診、後方支援病院が急変時の入院受け入れを行うなどの取り組みを行っている。
 札幌市手稲区の稲生会は、医療的ケア児の小学校での受け入れ支援や医療関係者向けの実技講習会、広報活動などを全道各地で展開している。
 鹿追町の訪問看護ステーション柏の森は、学生と共同で、医療的ケアを必要とする人と健常者が一緒に映画鑑賞や運動会を楽しむ機会を創出している。
 地域医療、在宅医療をどう確保するか、皆様のお力添えをいただきながら進めていきたい。
総合診療医の視点を活かした ウェルビーイングを高める地域包括ケアシステム構築
北海道立羽幌病院 副院長 佐々尾 航 氏
 道立羽幌病院に私が勤めて13年。診療圏域は羽幌町、苫前町、初山別村で合わせた人口が1万人を切っている。内科・小児科以外は非常勤、病床数は91。急性期病院としての対応、地域のかかりつけ医として生活習慣病の管理、予防から在宅まで対応。学校医、産業医、介護認定審査会、在宅復帰支援、離島や留萌市立病院への診療支援などへき地医療拠点病院として巡回診療も行っている。
 総合診療医は、患者の生活背景、地域全体も含めて診る。その場の特性、医療介護福祉の資源に応じて働き方を変えて対応できる存在。都会でも田舎でも、未病でも人生の最終段階でも、子どもでも老人でも診ることができるのが総合診療医の魅力。
 2016年には理学療法士や社会福祉士も確保し、地域包括ケア病棟を開設できた。留萌中南部の町村には、入院時の連絡情報シートがあり、入院7日以内に多職種カンファレンスを実施し退院支援計画を立案している。2024年度は478人の入院に対して支援依頼は98.7%。そして83%が地域連携室で支援している。支援していない方は短期入院や亡くなられた患者さんが主。特に入院患者の背景には何があるのかを重視している。中にはゴミ屋敷に住んでいる、お金がなくてご飯を食べられていないといったケースもある。社会的バイタルサインを使ってチェックすることで漏れが少なくなる。
 各職員が入院患者に何をしなければならないかわかるようにフローも作成し見える化もしている。高齢者総合機能評価というツールを活用すると在宅復帰患者が増えると言われており、羽幌病院でも実施し、患者やケアマネジャーとも共有。理学療法士とともに退院前の訪問も行い、住まいの課題点を踏まえたリハビリを行っている。病院内外の多職種連携はとても重要で、日常的にコミュニケーションがとれる関係性、顔の見える関係はとても大事だと考えている。
 
事務局起点の地域包括ケアシステム構築と経営改革~公立芽室病院の事例
白老町立国民健康保険病院 病院経営監 西科 純 氏

 3月まで公立芽室病院の事務長をしていたため、芽室病院の話が多くなることをお断りしておきたい。
 芽室病院は私が人事異動で赴任した当初、経営難で銀行からの借金もあり、内科医は2人。北海道厚生局の個別指導が入り約1億円の返還金が発生、院長降任、自己資金比率は道内でワースト2位、議会や役場から追及されるなど、組織内はボロボロだった。
 課題が山積する中で経営のV字回復を目指した。経営改革策は30を超え、病院内でワーキンググループを作った。例えば健診が伸び悩んでいたらワーキンググループが町のイベントでビラ配りをするなど。
 また経営を事務局任せにするのではなく、現場こそ経営感覚が必要だとする京セラの稲盛さんが行った「アメーバー経営」を採用。島根県公立邑智病院の部門別原価管理会計システムを学び、芽室病院でも全ての課で毎月PDCAチェックを行った。
 今では内科医が2人から6人に増え、リハビリスタッフも5人から15人に。訪問看護ステーションも院内に設置、利用者が増えている。遠隔医療も開始し、クラウドファンディングで訪問看護用の車を確保したり、セル看護提供方式も導入。健診数も回復しピーク並みに復活、オンライン診療を将来に向けて推進、病院まつりを3回開催し1,500人もの町民が参加。町の広報紙とは別に病院の広報紙を全戸配布。出前講座も積極的に進めている。コミュニケーションレターは感謝の言葉も入ってくるようになり院内に掲示。職員満足度調査も患者満足度調査も、結果は満足度が高まっている。190人で構成される公立芽室病院を支える会は、新入社員の歓迎会やフォーラム開催、花壇を整備。また職員が町のゲートボール、盆踊り、マラソン大会に参加したり、社協の祭りに出店するなど関係性を深めている。
 2019年から4年連続で黒字化した。断らない救急応需率の向上も進み、病院と住民の距離も近づいた。白老町立国民健康保険病院もさまざまな課題を抱えているが、改革のために開催した自由参加方式の会議には、職員約100人中61名が参加、これには展望を感じる。
 白老町の良いところは、医療と介護の連携を町が積極的に行おうとしている点。土壌はできていると思う。白老町には、“コタンの赤ひげ”こと高橋房次先生がいた。1960年に亡くなられたが、吹雪でも深夜でも往診を絶対に断らず、貧しい人からは治療代も取らないという医師がいた町である。
 ウェルビーイングを高める地域包括ケア・システムは大切だが、その前に、病院で働く人たちが地域の方々に信頼され、この病院で働くことが本当に幸せだと感じる状況でなければ実現できないと思う。
地域包括ケア・システムの訪問看護の役割 ~ウェルビーイングの視点から~
合同会社Grace.I 訪問看護ステーション恵 代表社員・管理者 井形 恵 氏

 私は総合病院の看護師を7年前に退職し、訪問看護ステーションを起業した。常勤看護師が7名、非常勤2名が在籍、利用者は85名前後、看取り件数は年間15名から20名ほど。自宅療養が困難な方、終末期の方向けに2025年2月に定員3名のナーシングホーム恵も開業した。
 地域包括ケアシステムの課題は、人生の最期をどこで迎えたいか、希望と実際の違いが大きい点にある。2022年の厚生労働省による「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」によると、自宅を希望される方が60%、病院約30%、ホスピス・施設が約10%。しかし実態は病院が73%、自宅15%、ホスピス・施設が12%となっている。
 原因は、第一に病院の治療方針が優先されがちな点。入院中に医師や看護師に「こんな状態では介護が大変だから、家は無理」と言われると、自宅介護を諦めてしまうケースがある。
 第二に在宅療養の情報不足。医療者やケアマネジャー、ご本人やご家族でも在宅療養のイメージがつかない方が多い。私たちが訪問介護に入った際も「もっと早く知っていればこんな苦労はしなくて済んだのに」という話を聞くことがある。第三に地域によってはサービス体制が不十分である点が挙げられる。
 訪問看護の役割は、医療的ケアの提供(点滴、疼痛管理など)、日常生活支援(清拭、整容、排泄など)といった入院中と変わらない看護の提供。在宅ではご家族への精神的サポートや技術指導も大切な役割。本人とご家族では半々と言っていいほどご家族への支援が重要である。
 多職種連携への支援体制の構築では、担当ケアマネジャーがいることがほとんどだが、看取りの場面では看護師の訪問が多くなることもあり、情報は看護師が一番多く持っているので、必要なサービス体制を整えてもらうためにアンテナを張り巡らせることも重要と考えている。
 病院では私たちの仕事に患者さんが合わせてもらう、在宅では訪問看護師がその方の生活にお邪魔させてもらう点が異なる。自宅介護で好きなものを食べるとむせない、食欲が増すということがよくある。家の環境が一番の薬ではないかと思う。
 訪問介護は、一人の患者さんに多く時間をかけられるのも良いところ。家族が集まって話をしたり食事をしたりと家族の思い出になったケースや、患者さんの妻から「介護してきたこの期間が今まで生きてきた中で一番幸せな時間でした」と言われたケースもあった。在宅療養は支援体制が整えば可能な選択肢。地域包括ケアにおける看護職の役割は大きいと考えている。

発言者への感想・助言

助言者
明日香村国民健康保険診療所 管理者・所長     武田 以知郎 氏

 道立羽幌病院ではさまざまな課題をクリアし総合診療を進められている点、公立芽室病院は職員のモチベーションアップを図りながら地域の信頼獲得を実現した点が素晴らしい。明日香村にある医療介護の灯台は、北海道では羽幌病院や芽室病院にもあり、そうした灯りが徐々に道内各地に増えると、そこに医師や介護などの人材も集まり、灯りが広がると思う。
 家での看取りが望ましいケースはたくさんある。しかし開業医の先生にとって「在宅医療」への関心は薄く、負担が大きいのも全国共通。介護職も含めて人材育成を大切に進めていきたい。
司会者
北海道国民健康保険診療施設連絡協議会 会長
足寄町国民健康保険病院 院長 村上 英之 氏

 ウェルビーイングは、在宅医療・在宅介護に限らず、どの場所においても尊重できると思う。今回のシンポジウムでは、病院の経営改革は難しい、在宅介護は難しい、というような今までの考えは、思い込みが邪魔をしていると感じた。コロナ禍、そして高齢化社会を迎え、思い込みではなく、新しいアプローチが求められると思う。

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