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時流

健やかに老いるための生物学的メカニズム

北海道千歳リハビリテーション大学 特任教授 森  満 

 今年100歳になるので、それを機に「ロートルズ」という名前のバスケット・チームから引退するという日本人男性が報道されていた。自分はまだプレイできると思っているが、周囲の家族の助言を受けて、やめることにしたという。うらやましい限りであるが、そこまでいかなくても、健やかに老いていくことは可能なのだろうか。
 Venki Ramakrishinanの著書「老化と不死の謎に迫る」(日本経済新聞出版, 2025)では、老化の生物学的機序が多方面から論じられているが、ここではそのうちの主要な4つを紹介する。それは、年齢とともに、①体内のタンパク質に変性が起こること、②変性したタンパク質を廃棄処分するシステムに欠陥が生じること、③細胞内の染色体末端のテロメアDNAが短くなっていくこと、そして、④細胞内のミトコンドリアに損傷が起こること、である。
 一番目として、体内のタンパク質に変性が起こることの原因の一つは、タンパク質に糖分子が無秩序に付加される糖化と呼ばれる状態である。血糖値が高くなるとタンパク質の糖化が起こりやすくなり、これによって、白内障、黄斑変性症、網膜症などの目の病気や、腎臓の糸球体や尿細管の変化による腎臓の病気、末梢神経の障害などが引き起こされる。したがって、血糖値を正常に保つことが重要になる。
 二番目として、変性したタンパク質を廃棄処分することに関与するのは、ユビキチン化(欠陥のあるタンパク質に印をつけること)のシステムとプロテアソームである。プロテアソームは、家庭用ゴム処理機のように、ユビキチン化されたタンパク質を粉々にしてリサイクルに回す。老化とともにこのシステムに欠陥が生じやすくなり、神経変性疾患であるアルツハイマー病やパーキンソン病の発生につながる可能性があるという。システムに欠陥が生じる原因は分かっていない。
 三番目として、細胞が分裂を重ねることによって染色体末端のテロメアDNAが短くなっていくために、細胞分裂の回数に限界が生じるが、これをヘイフリックの限界と呼ぶ。そして、テロメアDNAが一定程度短くなると、細胞はアポトーシス(プログラムされた能動的細胞死)する。年齢とともに新しい細胞でもテロメアDNAはより早く短くなってアポトーシスしやすくなる。慢性的な睡眠不足や喫煙の習慣は、テロメアDNAをいっそう早く短くするように働き、これによって老化がさらに進行しやすくなる。
 四番目として、年齢とともに細胞内のミトコンドリアに異変が起こりやすくなり、ミトコンドリアの膜が裂けて、ミトコンドリアのDNAが細胞質に漏れ出しやすくなる。その結果、糖尿病、心不全、肝不全、聴覚の喪失などが起こるリスクが高くなるという。ミトコンドリアが損傷されることなく元気であり続けるためには、習慣的に運動をすること、日光をよく浴びること、野菜を多く摂取する食生活を行うこと、などである。
 いずれにして、運動、睡眠、食事などの生活習慣に気と付けて、できる限り以上のような老化のメカニズムが働かないようにすることが、健やかに老いることに繋がるといえる。

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