時流
前もって準備する自分のレガシィー・プロジェクト
北海道千歳リハビリテーション大学 特任教授 森 満
自分の人生を閉じる時期はいつになるかは分からないが、必ずやって来ることには間違いない。死に直面するときの精神状態を前もって心配してもしかたがないが、死期が近づいている者の精神状態をより良い方向へ導いてくれるような人がいてくれると有り難いと思う。
米国で毎日のように死と向き合っていたホスピスのソーシャルワーカーが、2003年からそのような臨死期の心のケアにおける支援とそのプログラムの開発を行っていることを書籍で紹介し、日本でも出版された。Henry Fresko-Weiss著「看取りのドゥーラ. 最期の命を生きるための寄り添い人」(明石書店、2022年)である。ドゥーラとは、ケアをする人を意味するギリシャ語だそうである。
死を迎える人が、過去の思い出を整理して、できる限り肯定的にその人生を振り返ることができれば、少なくとも穏やかに死を迎えることができるという。逆に、過去の思い出を肯定的に振り返ることに失敗すれば、自らの人生は無駄だったと思うようになり、後悔、苦しみ、そして絶望の感情を抱くようになるという。回想法の理論家によると、そのような肯定的な回想によって、抑うつ状態は軽減され、人生の満足度が高められ、高い自己肯定感が生まれ、健全な精神状態が得られるという。
看取りのドゥーラの作業としては、死にゆく者の過去について、本人に回想してもらい文章化し、時には本人以外の人からの情報も文章に加えていくことが重要であるという。さらに、本人にまつわる文章以外の媒体、例えば、写真、絵画、ビデオなども有用であるという。ここでは、人生の中で成し遂げたことや学んだことだけでなく、失敗したこと、捨て去った信念、やり残したことにも目を向けてもらうという。そして、これら一連の回想の作業をレガシー・プロジェクトと呼んでいる。レガシー(legacy)は遺産と和訳されるが、レガシー・プロジェクトは臨死期の人が辿ってきた足跡をまとめて残す作業といえる。
ほとんどの場合、人は死にゆく場で直面する精神状態など考えずに普段の人生を送っている。しかし死に直面してから看取りのドゥーラに頼らなくてもよいように、自分の過去から現在までの軌跡を肯定的にまとめておくというレガシー・プロジェクトの作業を、前もって行ってみておいてはどうだろうかと思う。
当然、だれもが肯定的な過去だけでなく、失敗して後悔している過去も多くあると思うし、現在そのような厳しい出来事に直面している人もいるかもしれない。しかし、過去から現在までの軌跡をできる限り肯定的にまとめてみるというレガシー・プロジェクトを前もって実施しておくことは、その後の臨死時期までの行動によい影響を及ぼすのではないかと考えられるし、また、臨死期の場面での健全な精神状態にもつながるのではないかと思われる。
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