時流
子育て支援に必要な考え方
北海道大学名誉教授 前沢政次
地域包括ケアに保健医療福祉介護に加えて「子育て支援」を含めている地方自治体も増加している。その内容についてある自治体スタッフに尋ねてみると、「残念ながら、子育てのサポートではなく、虐待対応に追われています」との答えであった。
虐待とは子に対する親からの虐待である。
なぜ、それほどまでに子への虐待が多いのであろう。
一般に貧困や経済的な困窮が、親のストレスやイライラ、不機嫌を増幅させ、子どもへの虐待リスクを高める要因となる。特に生活費や育児に関する不安が強い場合、子どもに対する感情のコントロールが難しくなる。また、核家族化や地域コミュニティの希薄化により、親が支援を受けられない孤立した家庭では、問題解決の手段が限られ、虐待に至る可能性が高まる。
親自身の精神疾患(うつ病、発達障害、人格障害など)や感情・対人関係の未熟さは、子どもへの虐待リスクを増加させる。過去に虐待を受けた経験がある親は、自分の感情や欲求を抑圧して育ったため、子どもに対して過剰な期待や支配的な態度を取りやすく、虐待行動につながることがある。
近年ようやく一部の有識者や行政でACE(Adverse Childhood Experiences)の問題が取り上げられるようになった。米国では1990年代から研究が進められてきた。日本語では「逆境的小児期体験」や「子ども期の逆境体験と訳されている。
ACEは次の十項目でスコア化されている。①身体的虐待、②心理的虐待、③性的虐待、④身体的ネグレクト(十分な食事が与えられないなど)、⑤心理的ネグレクト(安心させ、守ってくれるおとながいない)、⑥親との別離(親の別居や離婚など)、⑦近親者間暴力、⑧家族のアルコール・薬物乱用、⑨家族の精神疾患・自殺、⑩家族の服役。
米国ではすでに2万人弱を対象に研究がなされ、スコアが高くなるほど次のような疾患が起こりやすく、また不健康を招きやすい行動をとるようになっていた。糖尿病、慢性肺疾患、脳卒中、がん、虚血性心疾患、自殺未遂、2週間以上の抑うつ気分、50人以上の性的パートナー、薬物注射、アルコール依存。
負の連鎖ともいえるこれらの問題を減らしたり、未然に防いでいく方法はあるのであろうか。子育て支援が虐待対応になってしまわないようにするには、どのような方法でアプローチしていかなければならないのだろうか。
わが国では実態調査は困難であろう。親や親になる人への啓発活動、家庭訪問、子ども食堂の充実、食育の推進などであろうか。その前に、引きこもり、未婚問題も大きく立ちはだかる。まずは、子育て支援担当者を支援する取り組みから始めてみたい。
(参考図書:三谷はるよ『ACEサバイバーー子ども期の逆境に苦しむ人々』筑摩書房 2023年)
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